安心して認知症になれる社会を目指して~1人ひとりのマイクロハピネスをみんなのウェルビーイングに~
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 教授、認知症未来共創ハブ リーダー/人とまちづくり研究所 代表理事・堀田聰
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 教授/認知症未来共創ハブ 代表 堀田 聰子(ほった さとこ) 氏
東京大学社会科学研究所特任准教授、ユトレヒト大学客員教授等を経て現職。博士(国際公共政策)。2018年に「認知症未来共創ハブ」を立ち上げ、認知症のある方の想いや体験、知恵を起点に、本人とさまざまな関係者との協働を重ねる。監修に『認知症世界の歩き方』(2021年/ライツ社)、監訳に『コンパッション都市』(2022年/慶應義塾大学出版会)など。厚生労働省社会保障審議会・介護給付費分科会委員、内閣府認知症施策推進関係者会議委員、人とまちづくり研究所代表理事など。
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認知症をテーマに話したい
身近な方で認知症の診断を受けている人はいますか?
地元で認知症の人に会ったことがないという人はいますか?
では、認知症ってなんでしょうか?
物忘れととらえられることが多いが、記憶に関する問題がなくても認知症と言われることがある。
認知症:認知機能が低下して、社会生活(日常生活)において、支障が生じること
支障は60-70がある。
単純に機能が低下したら認知症ではない。
日々の生活において障害が起こったら認知症。⇒ 社会がおいついたら、認知症とは言わなくなる。
現代社会は、物のデザインが複雑。
認知症になると視界が狭くなる。上の表に表示がると目に入らない。視界が狭くなる。
床も白くて、壁も白くて、トイレも白いと、どこに座っていいかわかりにくくなる。⇒ 空間の認識に支障
我々が認知症に対してどういうイメージを持っているかでも、支障が出るか出ないかが変わる。
そうなると、自分がやりたいと思っていることを言わなくなる。
例:会計がうまくできなくなると、買い物に行きたいと言わなくなる。閉じこもり。落ち込み
社会生活に支障が出る = 社会の環境が追いついていない。我々の認識が追いつかない
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サ高住へ住んだ人(年寄り)の会話
コーヒーミルで挽いて、コーヒーマシンだけど、本当はネルのドリップでやりたいんだけど、まあいいや。コーヒーマシンで毎朝かけてる。とにかく起き抜けにやんの。
隣は「毎朝いい匂いしますね」なんて言うから、「そうかい」っつってるの。(隣の人が)好きじゃないからね。
「そうかい」っつってさ。「朝からすいませんね、がらがらコーヒーミルの音さしちゃって」なんて言うんだけどさ。じゃ、飲みにいらっしゃいよなんてこと言わないよ、匂いだけ。
意地が悪いから(俺)(笑)
自宅を整理して引っ越した。
コーヒーマシーンを持っていかないだろうと思っていたが、持って行った。
まさか、自分でコーヒーを入れないだろう、と思い込んでいた。
年を行くと穏やかになると思い込んでいたが・・・
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それぞれの人の日々のつぶやき(声)が、町にいかされているのか?
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3547_01
認知症に関わる社会の変化
「治す」から「受け入れる」へ
共生社会の実現へ
共生社会の実現を推進するための認知症基本法 (2024)
認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会(以下「共生社会」という。)の実現を推進することを目的とする。
「新しい認知症観」
全ての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること
昔から憲法に、基本的人権は書かれていたはずだが、あらためて、「基本的人権を享有する個人として」と記載することは、まもられていなかったってことです。
それぞれの人が違うので、「朝起きて、風呂に入って夜に寝る」と良いのだが、「夜起きられると困る」 そういうことが出来なかったのでないですか? と問われている・
本当は家に居たいけど、施設などにいる。
当事者が訴えていたのは、「新しい認知症観」(認知症になるとなんにもできなくなると思われているが、そうではない)
二 国民が、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることができるようにすること。
三 認知症の人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、全ての認知症の人が、社会の対等な構成員として、地域において安全にかつ安心して自立した日常生活を営むことができるようにするとともに、自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができるようにすること。
どうやって、認知症の人の声を起点とするのだ????
01 認知症の人の声の把握・本人同士の語り合い
02. 記録。蓄積。共有(聞いた話は広げる)
03. 地域づくりへのアクション ⇒ 01 (まわる)
認知症の人の声を直接、聞く機会は?
・自治体の窓口や電話
・認知症カフェ
・
日常生活の中で困っている(買い物など)は少ない
・認知症の本人同士が集まる機会は少ない
・ご本人が居る時に(家、施設、活動場所など)出かける機会は月に数回が40-50%くらい
本人の経験や、声が施策に反映できているか? できていない
地元の認知症の方たちと施策を考える自治体は少ない
声を活かすことのできている自治体は、本人が集まる機会がある。回数が多い方が、施策にその声が活かされる。
本人の声を直接聞く機会/本人と共に行う活動
↓
(担当者の)本人の声反映に対する態度
↓
(市町村の)本人の声反映の取り組み実績
認知症の本人の視点をきっかけに、誰にでもわかりやすい郵便局へ(和歌山県御坊市)
(郵便局が)壁に郵便局マークをデッカクつけた!
インクルーシブデザイン認知症の本人とともにっくり学び合う(愛知県名古屋市北区)
(今までは多数派の声を聞いていたが、マイノリティーの人の声を聞いて)
誰もが認知症になる。誰もが認知機能が落ちる。なんとかして切り抜けている工夫を
畑サロン・介護予防サロン
どういうシチュエーションで、本人がどういったのか
愛知県岡崎市
介護サービスのデイをやっていた人。認知症の人が集まっているよと伝える。
ラインをやりたい → 友達が欲しい → 友達が出来たら出かけたい
鳥取市
市でいろいろとやっているが、いつも同じメンバーだけ
地元のデイに通ってみよう。地域の行事に参加。
野球がしたい。→ 小学生とやった。試合の場所までどうやっていく。その段差がみえないんだ。
一塁からそのまま、まっすぐ走っていた。(野球のルールを変えてもいいのでは)
草刈りをする。→ 夏中どこでもニーズあり。
認知症ご本人の声から、一歩先に、社会の対応力の無さを見せてくれている。
一人の市民
認知症未来共創ハブとは
https://designing-for-dementia.jp/
(途中退席:用事あり)
怒り、嫌悪、恐れ、幸せ、悲しみ、驚き の感情のうちどれを一番強く感じているのか?
認知症の当事者に聞くと(認知症になって5年くらい)
幸せ(ダントツ) > 悲しみ >恐れ > 怒り・嫌悪・驚き(3つ同じくらい)
認知症と診断されて平均4.88年経った人々が、インタビューを受けているときに表していた最も強い感情は、幸せの感情だった。そして、その幸せをみつけるには、複雑な認知的処理を行いさまざまな努力をしているように考察された。
一方、認知症と診断を受けていない人
恐れ > 悲しみ > 怒り・嫌悪・驚き >幸せ
※認知症のある人の実感とは異なり、一般の人々は、認知症の人 は強い恐れの感情を抱いて暮らしていると想像していた → 偏見
では、認知症になった人はどこから幸せを見つけているのか。
•11の生活領域(衣(着る)・食(食べる)・住(住む)・金(お金をまかなう)・買(買い物をする)・健(心身をケアする)・移(移動する)・交(交流する)・遊(遊ぶ)・学(学ぶ)・働(働く))及びその他に分類し、分析
すると、
「交」 他人との交わりからというのがトップだった。
「交」19人、「遊」18人、「食」「その他」14人、「健」13人等 の順
・素のままでいられる(認知症だと隠す必要がない)
・おしゃれして出かける
・他人のために役立っている
専門職、行政は、生きるギリギリ(食べる、生きている、病気にならない)で手一杯
「活動・イベント、趣味、娯楽、スポーツ、文化活動、仕事等への参加」には手がまわらない
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社会参加の効用と、その減少がもたらすもの
•社会参加することは、人とのつながりから幸福感や満足を得ることや、役割を果たして目的意識や自尊心を持つことで、人のウェルビーイングに寄与する (1, 2)。そこで得たつながりはソーシャルサポートの授受を可能にし、困ったときに助け合う資源にもなる (3)。
•この社会参加の効用は、認知症のある人たちにも当てはまるとされる (4)。
•しかし、認知症になって日常の活動に制限が出始めると、その前後から社会参加にも深刻な影響がある (5)。例えば、認知症のない高齢者の87%が維持する日常的な社会的交流は、認知症の診断前後で55%から23%まで低下するという報告がある (6)。
•社会参加の減少は、認知症があって、さらにひとり暮らしをする場合、特に大きな意味を持つ。独居認知症高齢者は、同居者がいる場合よりも、精神的ウェルビーイングが低く、他者からのサポートを得にくいためである。独居認知症高齢者は心理的なストレス、とりわけ孤独感を抱えやすいこと (7, 8, 9)、家事や食事、セルフケアなど生活に必須の活動に関する支援ニーズが満たされにくいことが知られる (10)。
•独居の認知症の人は、深刻な孤独を経験する可能性が高く、深刻な孤独は、抑うつ症状と社会的孤立のリスクの増加の関連がみられるという(7)。また、独居の認知症の人の満たされないニーズの上位は日中活動、友だち・仲間であることが報告されている(11)。
一人ひとりのマイクロ八ピネスがみんなにとってのウエルビーインクにつながるために
・現状のポジティブな受入(あきらめを含む)に基づいて(現実同化性)
・他の認知症高齢者のちょっとした工ピソードも活用しながら(データ活用性)
・あり得るハピネスの探索を行う(問題解決ではなく、可能性指向性)
https://hitomachi-lab.com/
「可能性指向」のケアを学ぶ
認知症の本人の困りごとや苦労(生活課題)に着目するのではなく、本人が大事にしていること、ちょっとした楽しみやこだわり、知恵に着目して「可能性指向」へと見方を変え、本人とともによりよい環境をつくりだしていくための研修です。
研修では、みなさんのケアプランや面談時の姿を振り返ったり、本人の声を聴くための手法の例を学んだり、本人の声を地域に展開する方法を考えます。
可能性指向のケアのポイント
①本人の声をきく
②肯定する
③一緒にやってみる
面白い例がいろいろ
認知症の人に対する態度<認知症の人に対する態度尺度短縮版の4項目>
家族が認知症に対してどう思っているかが、その人が認知症になった時の生活にかかっている。
「その方が1人で外出するにあたって不安や心配を感じることそのうち、実際にそういうできごとがあったか」
実際に発生したこと以上に、不安に思っている。
「だいたいおっけー展」
https://daitai-ok.studio.site/
なんとか暮らしている知恵の展覧会。