議会局「軍師」論のススメ(71-80) 清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 
第71回 議会に機関としての本質的進歩はあったのか?
地方自治 2022.10.13

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 先日、大森彌・東京大学名誉教授から、ご自身の新刊である『自治体議員入門』(第一法規、以下「新刊」)をいただいた。

 大森教授とは、いくつかのご縁の中で共感させられたことも多く、今号では教授の著書を題材に、分権改革後も地方議会に残された課題について、考えてみたい。

■分権改革後の課題の指標
 新刊は、前書きで自著の『新版 分権改革と地方議会』(ぎょうせい、以下「旧刊」)の絶版後に必要性を痛感して示した自治体議員論だと、位置づけられている。旧刊は地方分権一括法施行直後に発刊されたこともあり、第1次分権改革が地方議会の権能に及ぼす可能性について重点的に述べられている。

 その一方で、今日に至るまで継続する議会改革の課題についても、詳述されており、新刊にも同様の記述がある内容が、直近20年間で進歩が少ない分野と言えそうである。

■本質的な議会機能とは
 新刊で著者は、「合議体としての議会が体をなすには、多様な人格の持ち主である議員から出されるさまざまな意見や議論を一つの意思に集約できなければならない。それに不可欠なのが対話・調整・集約のための議員同士の討議」だとする。そして「対話は、当事者の考えが、話す前と後では変わることが前提で、主張と聴取の交換によって合意をつくり出す作業。それには多数派の譲歩と少数派の妥協が必要」と議事機関の本質を端的に説いている。

 だが、旧刊でも「国会をモデルにして執行部側がいつでも出席し、審議とは議員がこの執行部に対し演説口調で質問する形が常態であると観念してしまっているのは、本来おかしいのである」と指摘している。議員同士の討議を中心とした議会運営は、未だに実現されていないのである。

 その原因として両刊ともに指摘するのは、国会を模した配置の議場と、衆議院規則などを参考とした「都道府県議会会議規則準則」を源流とする「標準会議規則」への依存である。議場配置の変更は容易ではないだろうが、会議規則の見直しは新刊でも紹介されているとおり、大津市議会では抜本改正済みであり、やる気次第で可能である。

 特に旧刊で「会議規則自体を変える必要がある」とする最たる理由は、「住民の権利義務規制は規則でなく条例によらなければならないという原則に反する内容を温存している」からだと新刊で詳述している。

 まずは住民視点での「標準会議規則」からの脱却が求められるだろう。

■機関としての進歩はあったのか
 議会を構成する議員のあり方としても、旧刊では「局地的、部分的な利益だけを考えていればよいというのでは、議会は合意形成のできない不毛な対立の場になる」と指摘しているが、新刊でも「議員としての大切な職務は、議会での立法活動(議案の提案・審議・表決)であり、陳情などの仲介活動でも、個別利益の実現に係る『口利き』でもない」と、一般質問と口利きが議員の本分であるかのような世間の誤解を解き、法が求める議員の行動指針を明確に示している。

 分権改革後に様々な議会改革が進展したのは間違いない。だが、議会を機関としての権能から表現した、立法機関、議決機関、議事機関などの本質的機能の面からは、議会は果たしてどれくらい進歩しただろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。


 
議会局「軍師」論のススメ 
第72回 市民による第三者評価の意義は何か?
地方自治 2022.11.24

月刊『ガバナンス』2022年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 「市民が議員活動を評価し、過半数が不十分と判断した場合、議員報酬を半減させられないか」

 これは龍谷大学大学院政策学研究科「地域リーダーシップ研究」(注1)の講義で、ある院生から私に投げかけられた質問である。当該科目の院生は学部から進学した学生のほか、社会人も多数を占めていた。

(注1)科目担当:阿部大輔・龍谷大学政策学部教授。

 私にとっても、議会関係者以外に話す機会は限られ、一般市民の率直な意見に触れる貴重な機会となった。今号では、ごく一部であるが講義での気づきについて記したい。

■講義の概要
 講義では最初に「地方議会をめぐる立法趣旨と現実のズレ」と題し、地方議会の法的位置づけ、権限について概説した。そのうえで総論として、立法趣旨や市民感覚と、議会の現状とのズレを補正しようとすることが改革の意義であり、ズレ幅の大きいところから優先して改革することが求められる方向性であると説明し、各論として大津市議会の議会改革について話した。

 特に議会について法的に考察する際は、現行法の文理解釈に終始するのではなく、制定経緯や立法時の時代背景を含めて考察することが求められると論じた。

 一例として挙げたのは、憲法93条の「議事機関として議会を設置する」との条文に関して、執行機関との対比で議会の本質である「立法機関」や「議決機関」と規定されるべきではないかとの議論である。

 だが、憲法の制定過程を調べれば、マッカーサー草案では「local legislative assemblies」、直訳すれば「地方立法議会」とされていたものが、政府案では「立法機関」という言葉を削るために、「議事機関」へ議会の性格付けを押し戻したとされている(注2)。それは、中央政府が首長優位の体制の下で自治体を統治しようとしていた、当時の政治的背景によるもので、文理解釈の議論からは結論が見えないとの趣旨で説明した。

(注2) 月刊ガバナンス2010年8月号「二元『的』代表制か、二元代表制か」、ちくま新書『地方自治講義』(今井照)。

■市民による評価から見えるもの
 次に、2コマ目の質疑応答で得た気づきについて触れたい。

 大津市議会ミッションロードマップは、議員任期4年間の政策サイクルとして、政策立案と議会改革の工程を定めると同時に、議会活動の評価制度を定め、評価サイクルをも確立したものである。そして任期最終年度には有識者による第三者評価を受けるとの説明の文脈で、冒頭の質問は投げかけられた。

 もちろん現行法上、評価結果と報酬額を連動させることには無理がある。だが、議会人として意識すべきは、このような厳しい質問の背景には、現職の議員に対する強い不信感があるという現実だ。

 「では、あなたが立候補したらどうか」と尋ねたら、「後々なれるようにしたい」という。講義後には「犯罪被害者や貧困世帯を救うために議員になり、議員報酬も半分返還したい。だが、何を勉強し、どうすれば議員になれるのか、実現への道筋が見えない」と議員を志す院生から悩みを聞かされた。

 全国的には議員のなり手不足が社会問題化し、報酬の低さばかりが注目を集めているが、当選までの道筋が見えないとの課題も、市民意見から見えた大事な視点であろう。

 大津市議会では、有識者による第三者評価に市民も加えることを検討しており、今回の講義は私にとっても、その方向性に間違いがないことを再確認する良い機会となった。

*文中、意見にわたる部分は私見である。


議会局「軍師」論のススメ 
第73回 新任議会(事務)局職員に 求められるものは何か?
地方自治 2022.12.22

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年4月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 自治体では4月は定期人事異動の季節である。初めて議会(事務)局(以下「議会局」)に配属された人も多いだろう。異動の受け止め方は千差万別であろうが、今号では筆者の経験をもとに、議会の世界で仕事をするにあたっての雑感を述べたい。

■局職員の既存イメージ
 2月末の「議会制民主主義のあり方を改めて考える」をテーマとした滋賀大学公共経営イブニングスクールで、「議会制民主主義の本音と建前」と題して講演した。その概要は、本会議の花形と思われている一般質問の位置づけなど、「建前」としての立法趣旨と、「本音」が具体化した実態との乖離、それを補正するための大津市議会の議会改革事例を紹介したものである(注1)

(注1) 詳細は、清水克士「議会の『常識』は真理なのか?」(北海道自治研究2018年2月№589)を参照。

 提中富和・滋賀大学産学公連携推進機構プロジェクトアドバイザーからは、従来の本会議のあり方を抜本的に変えるという意味で、「ちゃぶ台返しの論」だと評された。もっとも、既存の議会運営も、議会の主役である議員にとっての利点があればこそ全国で定着しているのであり、議事機関の本質との乖離は、局職員だからこそ客観的に論じられるところもあると思う。

 一方、主宰する石井良一・滋賀大学名誉教授にとっては、既存の局職員像との乖離があったようで「議会事務局における職員イメージは、あがりのポストであり、口うるさくない人や従順なタイプが配置されるとの印象がある。だが、改革を進めようとするならば、議員と同じ目線で考えようとする職員が必要になる。大津市議会局にはどうしてそんな職員が配置されるのか?清水さんは希望して配属されたのか?」と問われた。

 私は議会局への異動を希望したわけでもなく、前所属での仕事に魅力を感じていたこともあり、正直なところ失意の中での着任であった。だが、議会内の合意形成にリーダーシップを発揮してくれる議員の存在もあり、「チーム議会」の一員として議会改革に参画できた実感が、モチベーションアップにつながったことなどを話した(注2)。

(注2) 詳細は、清水克士「行動する議会(事務)局」の役割とは何か?~大津市議会局での実践~」(議員NAVI2022年3月10日)を参照。

■置かれたところで咲くために
 だが、一般的には「自分から配属を望まなかった職員にとっては、議員との付き合いは苦痛である」(注3)とされる。議員と局職員のフラットな関係性を前提とする「チーム議会」の成否は、最終的には議員次第であるが、局職員も最初から議員を忌避していては何も始まらない。

(注3)大森彌『自治体議員入門』(第一法規)。

 私の職場外での知人の多くは、他議会の議員や元議員である。個人的には議員のほうが、個性豊かで魅力的な人が多いとさえ思える。せっかく議会の世界に配属されたのだから、食わず嫌いをせず、議員とのヘビーな人間関係を楽しんでみてはどうだろうか。

 もちろん最初は自分の所属する議会からであるが、慣れてきたら外部での人脈も重要である。それは、自治体議会はスタンドアロンの存在であればこそ、外界に触れようとしなければガラパゴス化が必至となるからだ。内向き思考では、自分達の常識が世間の常識とは限らないことに気づかなくなるので、常に全国の動向や時代の変遷による価値観の変化にアンテナを張っておくことが求められる。

 いずれにしても、置かれたところで花を咲かせられるかは、本人の気の持ち方次第である。新任局職員諸氏の今後の活躍に期待したい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。