議会局「軍師」論のススメ(41-50) 清水 克士

議会局「軍師」論のススメ
第41回 「チーム議会」が局職員に求めるものは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年8月号)

■選挙結果と議会の普遍性
 統一地方選挙組の議会では、初の定例会も終わり、安堵している局職員も多いだろう。選挙は立候補者にとっては、政治生命をかけた闘いであり、その心境としては、自分が議員となってこその議会であろう。したがって、議会活動の方向性も任期単位で考えられがちだが、議会は誰が議員であるかにかかわらず永続する議事機関である。

 もちろん、選挙の結果として議員構成が変わることによる機関意思の変化は、民意の反映として真摯に受け止めるべきものである。だが、二元的代表制における議会の普遍性に関する部分での後退までもが、許容される変化ではないだろう。

 既に全国の議会においても、普遍性の後退に関しては、問題意識が共有されており、議会基本条例を必要とする理由の一つとされている。

 改革派議員の引退によって、成し遂げられた改革が一気に後退することが、全国ではままあり、議会基本条例に改革内容を明記することによって、後退への抑止力として機能することが期待されている。そして議会改革に限らず、機関としての理念や活動方針の継続性を維持することは、議会にとって大きな課題である。

■大津市議会の取り組み
 その答えの一つとして、大津市議会では、議会基本条例の理念を具現化する通任期の実行計画である「大津市議会ミッションロードマップ」を策定している。これは議会活動の見える化を図るとともに、任期末には有識者による外部評価を制度化し、議会の政策サイクルを確立したものである。その評価結果は、次期議会への申し送りとして取りまとめられ、培われた文化の継承と、任期を超えた議会活動の継続性の維持に資している。

 これまで、4年の任期を超えた議会活動の継承に着目されることは少なかったが、市民視点からは機関としての切れ目などはなく、活動を任期単位で区切って考えることは内部視点でしかないだろう。

■任命職としてすべきことは何か
 一方、選挙を前にして、次期議会への展望は、選挙に立場を左右されない任命職たる局職員の方がしやすい面もある。局職員は組織で仕事を進めるため、人が変わることによるブレは、公選職で構成される議会本体より少ない。その特性を活かし、任期を跨ぐ議会活動の成果の継承に、局職員はより積極的に取り組むべきではないだろうか。

 議員は市民の代表であるが、公選職であるため選挙への影響を無視できず、自分の集票基盤に配慮した個別最適を追求せざるを得ない面があることも否定できない。したがって、議員個人が必ずしも全体最適性や普遍性を最優先に考えた行動をとるとは限らない。

 その意味からは議会のために、あえて任命職である局職員が俯瞰した意見を述べなければならない局面もあろう。局職員は全体の奉仕者として、市民のために仕事をすることが法で義務付けられており、強固な身分保障は、全体最適な市民福祉向上の実現のためにこそあると考えられるからだ。

 そして、議員と立場の違いはあれど、局職員にも議会による市民福祉の向上に積極的に関与しようとする意識があってこそ、議員や市民からも「チーム議会」に欠かせない存在として信頼を得られるのではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第42回 議会改革の努力の方向性は正しいのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年9月号)

■大鑑巨砲主義の呪縛
 先日、広島・呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)を訪れる機会があった。展示テーマの戦艦大和は、世界最大の46cm主砲で艦隊決戦を制することを主眼に、国力を結集して建造されたものである。

 だが、既に世界では大艦巨砲主義の時代は去り、航空機が主役になると目されていた。日本にもそれを予見した人物がいなかったわけではない。むしろ、戦史上前例がない機動部隊(航空母艦を主力とした艦隊)単独の空襲によって勝利した真珠湾攻撃で、航空戦力の優勢を実証して見せたのは、現場トップの山本五十六連合艦隊司令長官である。

 しかし、「大和」「武蔵」に続く大和型戦艦3番艦として計画されていた「信濃」を空母に変更するなど、組織として戦略転換したのは、既に敗色濃い太平洋戦争末期であった。

 大艦巨砲主義の呪縛から逃れられなかった理由の一つには、日露戦争の日本海海戦で世界最強のバルチック艦隊を撃破した成功体験があると言われている。当時の航空機は主戦力とはなり得なかったが、艦隊決戦での成功体験が、その後の技術向上に伴う航空機時代到来の認識を阻害し、組織努力の方向性を誤らせたと言われているのである。

■議会報告会至上主義の呪縛
 議会改革の方向性についても、同様のことが言えないだろうか。視察対応時に、改革の優先順位に関連して、議会報告会を続ける意義について質問を受けることが多い。改革の最初に半ば義務的に継続するだけとなり、改革自体につまずく議会が多いのである。私は、参加者が少ないのはニーズがないということだから、止めて他の方法を模索して実施すれば良いと答えている。目的は議会への市民参加を促進することであって、議会報告会を行うことではないからだ。

 改革手法に、普遍的なものなどなく、その議会を取り巻く状況や時代によって、方向性や優先順位は自ずと異なる。時代は急激に変化しており、多数が実行してきたことだからといって現在も正解だとは限らない。

 あえて一般的な優先順位を示すなら、コンプライアンス徹底、情報公開度向上、議会機能強化である。

 コンプライアンス徹底の代表例としては、政務活動費の使途適正化やハラスメント対策である。これらは、市民に対する議会の信頼を保持するための最低限の改革である。情報公開度向上は、いわゆる「議会の見える化」である。議会を認知してもらうには、議会での議論を見てもらうことが大前提だからだ。議会機能強化は、主に政策立案機能発揮のための方法論の確立である。

■戦艦大和から学ぶべきもの
 いずれにしても、市民ニーズに応え、自分達の議会に適した戦略的方針を立てることが肝要である。

 他議会の成功手法に囚われず、自ら将来を見通した方向性を明確にし、求める結果に近づくために最適な手法を見極めることが必要だろう。成功例は、常に過去のものに過ぎないからだ。

 もとより政治は結果だと言われるが、プロセスにおける努力が評価されるのはアマチュアだけであり、プロの世界はどの分野でも、結果が全てである。努力は常に尊いが、その方向性を誤っては成果につながらない。それは、世界最大の主砲を装備しながら目ぼしい戦果を挙げないまま、敵艦載機に撃沈された戦艦大和の悲劇が証明している。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第43回 TTP(徹底的にパクる)に甘んじていいのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年10月号)

 先月号に引き続き、大和ミュージアムを訪れた時の議会に関する既視感について述べたい。今号は、琵琶湖底から引き上げて復元展示されていた零式艦上戦闘機(以下「零戦」)の歴史に関してである。

 零戦は昭和15年の中国戦線での実戦配備以降、太平洋戦争初期までは無敵の存在であった。

 だが、昭和初期まではライセンス生産が主流で、日本の航空技術は欧米に依存していた。航空主兵を唱える山本五十六・航空本部技術部長(のちの連合艦隊司令長官)が、外国機のコピーを良しとせず、昭和7年に「航空技術自立計画」を策定し、独自技術による純国産機開発を推し進めたことが、当時、世界最強の零戦が誕生した背景とされる。

■TTP(徹底的にパクる)の次へ
 議会では改革手法に特許などなく、むしろ積極的に先進議会のフルコピーが「TTP」と称して推奨されてきた。改革途上の議会で、一定の成果があったのは事実であるが、問題はコピーしたことで満足してしまい、歩みを止める例が散見されることである。

 必要なのは千利休の訓でいう「守破離」の発想なのではないか。「守」は先進事例の型を守ることに徹するフルコピー、「破」は自己都合で型を破るカスタマイズ、「離」は既存の型を離れて独自の型を創造することである。

 TTPは改革プロセスのはじめの一歩に過ぎず、模倣して先進議会と横並びになったことで満足せず、即座に革新的な独自モデルの構築を目指すべきである。歩みを止める守りの姿勢は、進歩を続ける他議会との相対的関係上、凋落は時間の問題となるからだ。

■持続可能性を追求する重要性
 成果を継続する方法論についても、零戦の歴史には教訓がある。零戦は格闘戦重視の徹底した軽量化のため、防弾装備が皆無であったことや搭載機銃の火力不足への対応が前線から求められた。零戦の設計主務者・堀越二郎氏は、零戦の後継機「烈風」をはじめ、複数の新型機開発以外に、零戦の改良型開発も命じられていた。もはや零戦の改良で、敵新型機に対抗できるものではなかったが、有能な設計者、優秀な機体であったがゆえに、個人の能力に頼りすぎ、零戦に見切りをつける時機も逸してしまったとされる。

 場当たり的で無理な組織方針が、後継機開発を遅れさせることになり、「烈風」は実戦配備されることなく終戦を迎えた。零戦が抜群であったがために、目前の改良型開発という対症療法にこだわり、中期目標の新型機開発という根治療法を先送りにした結果、本来の目的である制空権確保に失敗した一因と言われる。

■任期を超えた視点の必要性
 議会改革においても、当面の目標を達すると同時に、次を見据えた布石を打っておかなければ、先進を維持できないのは同様である。だが、地方議会制度は4年任期を超えて継続性を担保する制度設計とはなっていない。一方、市民視点からは議員任期とは関係なく継続する議事機関であり、持続可能性を追求する独自対応が求められるだろう。

 他議会のフルコピーの現状維持に止まらず、優れた独自施策の持続可能性を追求しようとするなら、個人対応ではなく組織として次任期以降をも見通した戦略を、議会独自に確立する必要性があるのではないだろうか。その具体論については、次号以降に譲りたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第44回 議会に長期ビジョンは不要なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年11月号)

 前号でも述べたとおり、地方議会制度は、それぞれの議会の理念に関して、議員任期を超えた継続性を担保する制度設計とはなっていない。今号では、議会の掲げる理念を機関として継承する具体策と、その目的について考えてみたい。

■ミッションロードマップの意義
 大津市議会では、2015年に「大津市議会ミッションロードマップ」という、議員任期4年間を通して議会が行う政策立案と議会改革の内容を定めた「全国初の議会版実行計画」を策定した。

 その一義的目的は、議会基本条例に定める基本理念、基本方針を具現化し、議会活動を「見える化」することによって、市民への説明責任を果たすところにある。

 計画最終年度の2018年度には、計画の進捗に関して毎年度末に行っている自己評価のほか、議会活動全般の課題についても、外部有識者による評価を加えたうえで、「次期議会へのメッセージ」として次任期への申し送り事項を取りまとめた。  

 それは今議員任期における実行計画である「大津市議会ミッションロードマップ2019」の策定時に、議論の前提として活用され、「大津市議会ミッションロードマップ」は2サイクル目に入った今年度、任期を超えて議会の理念を継承させるスキームとしても完成した。

■第三者評価制度の必要性
 議会における政策サイクル確立の必要性は、既に多くの議会で認識されているが、議会活動を第三者評価し、その結果を次任期の政策サイクルへ反映、連動させている議会はまれである。

 長期計画に基づいて、議会活動をPDCAサイクル化するにあたっては、どのような手法で評価を行うかがポイントとなる。自己評価を導入している議会は多いが、自己評価は甘くなる宿命にあり、それだけで市民に対する説明責任が果たされるとは思えない。市民が納得する客観性を担保するためには、第三者評価の導入が必須となろう。

 大津市議会の第三者評価は、大津市議会とパートナーシップ協定を締結している龍谷大学、立命館大学、同志社大学の大津市民である研究者に評価を依頼しているところに特色がある。アウトプット(手段の結果指標)を図る手法はあっても、アウトカム(目的に対する成果指標、議会においては住民福祉の向上度)を図る客観的な指標、手法は未だ確立されていないため、その視点を補うのが目的だ。

 高い見識を有する複数の研究者から、議会活動の市民福祉向上への貢献度について、一市民としての視点からも評価してもらうことによって、数値化した客観的評価が困難な現状においても、多面的な視点によるアウトカム評価の要素を取り込もうとするものである。

■目指すべき次の一歩
 執行機関も議事機関も、構成する公選職が4年ごとの選挙によって変わる可能性があることは同じである。だが、執行機関では多くの場合、首長任期を超える期間の総合計画によって、任期を超えた施策方針があらかじめ示されている。自治体としての政策は、4年を超えた長期視点で考察しなければならないものが多く、ある意味当然である。

 議会も二元代表制の一翼を担う立場からは、任期に囚われず普遍的理念を継承し、議事機関としての長期ビジョンを市民に示すことが必要ではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第45回 議会における「価値前提」とは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年12月号)

 10月末に北川正恭・早稲田大学名誉教授を招聘して、『滋賀から「チーム議会」で日本を変える!』と題した研修会を開催した。これは、滋賀県市議会議長会の議会(事務)局職員の能力向上に資する「軍師ネットワーク」事業として企画したものである。今号では、その講演内容を交えながら思うところを述べたい。

■「軍師ネットワーク」の意義
 「軍師ネットワーク」は局職員を対象とした事業であるが、県内全議員を研修対象としたのは、局職員も「チーム議会」の一員であることの理解を得る必要性を感じるからだ。北川氏もラグビーにおける「ワンチーム」の概念を議会にたとえ、局職員との協働の必要性とともに、「これまでは議員活動はあっても、議会活動はなかった」とし、「One for all、All for one」(一人は皆のために、皆は一つの目的のために)と強調していた。

 だが、多くの局職員は議員と比べて他議会の生の情報に触れる機会に乏しく、井の中の蛙状態にあることも否定できない。現実の課題解決に必要とされるのは机上の理論ではなく、現場経験に基づくノウハウであることも多い。しかし、その核心部分は公開情報として伝えられることは稀だからこそ、フェイストゥフェイスでの情報交換の場を制度化する必要性を感じるのである。

■求められる思考方法は何か
 北川氏は、「事実前提」から「価値前提」への発想の転換の必要性に言及した。「事実前提」とは、事実から物事を評価や判断することであり、それに基づく思考は、現状のデータを分析して未来を考える「フォアキャスティング」となる。

 多くの議会での活動が「事実前提」であるのは、先例主義の議会文化所以であろう。だが、それでは目標が曖昧になり、過去からの延長線上でしか未来を想起できないため、革新的発想は生まれないとされる。それが、議会は時代遅れと揶揄されてきた一因ではないだろうか。

 あくまで手段としての議会の政策立案や議会改革であり、どんな目的を実現しようとするのかという未来から逆算して現在を考える、「バックキャスティング」の発想での議会活動を実現すべきであろう。これが北川氏の言う議会における「価値前提」であり、市民福祉の向上を本質的目的とする、議会本来の方向性ではないか。

■「価値前提」の評価制度とは
 北川氏は「価値前提であればこそ、努力をしたというだけではだめだ。結果を出さなければ意味がない」とも言う。前号で議会の長期ビジョンの必要性を論じたが、必ずしも議員任期の4年以内に結果を出せるものばかりではないはずだ。例えば、選挙での投票率向上や議員のなり手不足の解消など、10年、20年単位で将来を見据えて取り組まなければならない課題もあろう。

 そのような場合には、バックキャスティングの手法の一つとして「タイムマシン法」と呼ばれるものもある。それは、最終目標達成にかかる期間を刻んで、中間目標を設定し、その都度評価して進行管理するものである。

 短期間では結果に反映し得ない目標の進行管理においては、計画遂行自体が目的化してしまうことがある。その対策としては「価値前提」の評価制度を構築する必要がある。議会活動におけるバックキャスティング思考と評価のあり方については、いずれ稿を改めたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第46回 理想の実現に必要なものは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年1月号)

 少々以前のことだが、19年8月の自治体学会堺大会で、「議会図書室による政策形成支援─先進事例にみる成果と可能性─」と題する、国立国会図書館の塚田洋氏による研究発表セッションを聴講した。

 報告の概要は、議員の調査活動を支援するという目的を果たさず、「無人の書庫」化している議会図書室の改革手法別の実績評価をしたものである。本号では、この報告に関連して、議会事務局への専門職配置について考えたい。

■議会図書室の改革手法
 報告では議会図書室の改革手法を、独自整備型と連携重視型の大きく二つに分類している。独自整備型は、常駐の司書を雇用し議会図書室自体の整備充実を図るものであり、連携重視型は議会外の図書館との連携によりレファレンス機能や蔵書不足を補おうとするものである。

 主に独自整備型の広島県呉市議会、連携重視型で市立図書館が議会を積極的支援している愛知県田原市議会、大学図書館との連携を主力とする大津市議会のそれぞれの実績を比較し、独自整備型の優位性から司書配置を正統な議会図書室改革の方向性として結論付けている。

 確かに自前の議会図書室に司書を配置するのが理想であり、有能な司書を雇用できた呉市議会の成果には、目を見張るものがある。

 だが、あえて大津市議会で連携重視型を採るのは、わずか1人の司書雇用と言われても、そのハードルは決して低くないからである。同規模議会の中では比較的少数の職員で、大津市議会局は多岐にわたる改革を支援する。異業種への配置転換が難しい専門職の採用は、現状の人員体制では部分最適リスクを負う可能性も高いと判断するからだ。

■類似例との比較
 類似の議論は、非資格職だが専門的能力を要するものとして、議会事務局への法制担当職員の配置問題でもある。議会提案条例の数で評価すれば、法制担当職員を配置済の議会に多いのが一般的傾向である。

 中小規模の自治体では執行部の法制担当職員を、議会事務局に兼務発令しているところもある。また、発令もせず、事実上、執行部の法制担当職員に丸投げしている議会も多い。

 だが、このような手法では、議会からの提案前に、執行機関の都合に合わせた条例案に修正されてしまうなどの弊害も指摘されている。法制担当職員についても、議会事務局に配置することが理想であるのは、司書問題と同様である。

■理想の実現への近道
 だが、専門職配置という理想を実現できないから、何の努力もしなくても良いというものではなかろう。

 幸いにして大津市議会局では法制担当職員を配置しているが、それが叶わない県内他市議会からの要望に応えて、滋賀県市議会議長会で実務担当職員の連携スキーム「軍師ネットワーク」を構築した。主には議長会と大学で連携協定を締結し、大学による法務相談を受けられるよう制度化したものである。

 どの分野においても、小規模議会事務局で専門職を確保することは容易ではない。

 現場は常に理想と現実のせめぎ合いである。目指すべき理想を正しく認識することは必要であるが、それに固執することが理想の実現への近道とも思えない。多様かつ柔軟な発想で、現場の実情に合わせた対策を考えることが重要だと思うのであるが、いかがだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第47回 判断能力として求められるものは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年2月号)

 昨年末、本会議や委員会の傍聴者用資料における議案当時者の実名公表について、議論となった。

 議員の手元に配布される議案書には、訴訟や損害賠償の相手方の実名が記載されている。一方、大津市議会では、傍聴者用資料についても基本的には議案書の複写が配布されるが、当時者のプライバシー保護の観点から、個人情報部分はマスキングして供されており、論点はその具体的妥当性である。

■援用された事例の概要
 その方針決定に影響を与えたのは、2018年7月の京都地裁における裁判例である。訴訟の概要は、京都市から市営住宅の明け渡し請求訴訟を提起された住民が、市議会のインターネット中継で実名や住所を公表されたのはプライバシーの侵害にあたるとして、慰謝料を請求したものである。地裁判決では、原告の主張を認め、市側に慰謝料等の支払いを命じた。

 この判決趣旨に準じて、大津市議会では傍聴者用資料の個人情報の取扱いを判断していた。

 だが、私はこの判決に違和感を覚え、この考えを準用する必要はないと感じた。議案審議が全面公開とされる意義は、議会運営の公正さを担保するためである。それは公共の福祉と個人のプライバシー保護との比較衡量となるが、法廷では全面公開されており、個人の利益が公益性を上回るとは思えなかったからだ。

 そこで、地裁判決時の議長だった寺田一博・京都市会議員に既知のよしみで尋ねたところ、案の定、京都市は控訴し2019年2月の高裁判決で逆転勝訴していた。そして、原告が最高裁に上告し、受理されるか否かの判断待ちだという。後日、11月29日付で上告棄却され、京都市勝訴が確定したとの連絡があった。

■判断の拠りどころは何か
 今回の訴訟に関しては法的に確定したが、必ずしも傍聴者用資料の件についての絶対的な判断基準ともなり得ない。既に司法判断が確定している争点でも、類似裁判例では判断が分かれることは珍しくないからだ。

 では、何を拠りどころに判断をすれば良いのか。仕事には知識や経験ももちろん必要であるが、誤解を恐れずに言えば、最も求められるのは時代の風を読み、リスクを直感できる「勘」を磨くことではないだろうか。時代や周辺環境の価値基準によって、判断基準も変動するからだ。

■適宜判断に資するもの
 議事運営では、即断即決を求められる場面も少なくなく、他業務でも十分な時間と情報を得てから判断できることばかりではない。むしろ、何らかの不確定要素を残したまま、決断を強いられる場面の方が多いのではないだろうか。自治体現場では、仕事にますますスピード感が求められ、時機を逸した判断は内容に妥当性があろうとも、事実上役に立たないからである。

 その観点からも「勘」を磨くことは重要である。一般的に仕事ができると評される人は、未知のケースに遭遇しても、思考停止することなく直感的に、大きく的を外すことのない判断をしている。もちろん、それは知識や経験に下支えされるものではあるが、漫然と知識を増やすことに注力し、場数を踏めば習得できるといった能力でもない。

 優れた「勘」は、人の意見を鵜呑みにせず、常に自分の頭で考えようとする能動的な姿勢からのみ、醸成されるものではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第48回 理論と実務のギャップを埋めるものは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年3月号)

 昨年末、非公式の場ではあったが総務省幹部と地方議会制度について、意見交換する機会に恵まれた。論点はいくつかあったが、ここでは主に地方自治法(以下「法」)第115条の2に規定する公聴会に関する議論について述べたい。

■公聴会活用を目指す意義
 地方議会への住民参画(広聴)手法としては、議会報告会(住民との意見交換を主旨とするものを総称)を実施することとの認識が定着している。住民に議会を身近に感じさせるとともに、議会の政策立案に資するケースもあり、一つの広聴手法として否定するつもりはない。

 しかし、それが議事機関として民意を聴取するための最優先されるべき手法とは思わない。それは、議会報告会は、重要だからこそ議会で審議される議案や請願等について民意を聴取することを、必ずしも目的としたものではないからだ。また、法定手法ではないため、住民意見が主たる議会活動である本会議や委員会の会議録に反映されないことも、議事機関の本質に迫る広聴手法とは言えないと考える所以である。

■使えない法定公聴会制度
 大津市では令和元年9月議会に、公民館をコミュニティーセンターに次年度から順次移行させることを主旨とする、コミュニティーセンター(以下「コミセン」)条例案が上程された。市全域で市民生活に直結する議案であるとともに、地域によって賛否両論だったため、公聴会開催が議会内部で検討された。

 公示後、公述人の公募期限までに適正期間を確保すると、9月議会の会期日程に収まらないため、11月議会の初日に冒頭採決する案が浮上した。だが、9月議会最終日に採決されないことによって、次年度当初からのコミセンへの移行準備に支障をきたすため、事実上の否決と同じとの執行機関からの意見も理由の一つとなり、公聴会の開催が見送られた経緯がある。法では公聴会を開催できるのは議案、請願等とされているため、上程されてからでなければ開催の公示はできない。公述人の公募期間を確保すると、通常の会期日程内で採決することは、実務上困難である。

 以上の主旨を伝えて、議案上程前に公聴会開催手続に着手するための法改正を、総務省幹部に要望した。

■現場ニーズを伝える必要性
 もちろん、今回、現場ニーズを伝えたからといって、すぐに法改正が実現するなどとは思っていない。事実、大津市議会では条例改正による独自広聴制度の創設について、議論されている。しかし、法定公聴会制度を日常的に活用するには、制度自体を使いやすく改正する必要性を感じており、国に現場の実務に関する理解を得なければ、抜本的解決には至らないのも事実である。

 机上の理論と現場の実務がすれ違う例は珍しくないが、市民にとっては不幸なことでしかない。今回は、たまたま総務省幹部から声をかけられたので、要望を伝える機会があったに過ぎず、私が努力して得た機会ではない。一方で総務省幹部からは、制度設計する立場から少しでも現場を知ろうとする熱意を感じた。

 対案なき批判では当事者の共感は得られない。現場の政治家である議員や実務家である局職員も、現行の法規定や制度が使えない現実を諦めるのではなく、制度設計に関わる理論家である官僚や学者に、建設的な対案を発信しようとする熱意が必要だと、改めて感じさせられた次第である。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第49回 議会局職員だからこそ見えるものは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年4月号)

 新年度の定期人事異動で、議会(事務)局に初めて着任した人は、今の感覚を忘れないでもらいたい。

 良くも悪くも執行機関とは価値観が異なり、違和感を覚えることも多いはずだ。もちろん、まずは引き継いだ仕事の型を覚え、間違いなくこなすことが必要条件である。

 だが仕事に慣れてきたら、次は個々の業務について、現状維持がベストなのかを市民目線で疑ってみることだ。その勘所は、最初に覚えた違和感である。

■赤信号皆で渡れば怖くない?
 法治国家の地方自治体で業務執行するにあたっては、法的根拠を把握することが基本中の基本である。

 ところが、議会の世界では、法令に根拠を置くよりも、内部規律である申し合わせや先例の類を根拠とすることが多い。それらは外部から見えにくいこと、地方議会は外部と関わらずに自己完結できる存在であることも相まって、議会運営は多様に独自発展している。

 例えば、議長任期に関しては、地方自治法第103条で「議員任期による」とされ、本来4年間であるはずである。ところが、現実には申し合わせで、1年や2年の任期としている議会が多い。議長が自主的に辞表を提出し、議長選挙が行われているのであるから決して違法ではない。

 しかし、法の趣旨を無視する決まりを組織として作り、運営しているという観点からは、脱法的行為との批判は免れないだろう。

 個人的見解としては、議長任期を全国一律に4年間と定める必然性を感じないので、法定せずに条例に委任し、各議会で定められるようにすれば良いと考えている。

 だが、それはあくまで立法論であり、法令遵守が声高に叫ばれる現代社会において、これだけ堂々と立法趣旨が無視される世界は、珍しいのではないだろうか。

 それでも市民利益に適う事情があれば、多少立法趣旨を逸脱していても、社会的に許容される場合もあろうが、議長任期を事実上短縮するところに市民利益などない。議会の内部事情でしかないのに「赤信号皆で渡れば怖くない」状態が全国的に定着しているところに、驚きを禁じ得ないのである。

■議会(事務)局職員の視点
 このように議会では当たり前とされていることでも、社会通念上、疑問に感じることは少なくない。だが、執行機関が同じことをしたら、果たして議会は見逃すだろうか?

 議会に対する監視機関は制度上存在せず、選挙も「議会」ではなく、「議員」を対象とする直接統制であるため、「議会」のガバナンスは甘くなりがちである。それは、世間を騒がした政務活動費関連の事件に鑑みても、否めないところだろう。

 公選職ではない議会(事務)局職員だからこそ、違って見える議会の風景がそこにはある。そして、議会改革を進める上でも、その視点は必ず活かせる。

 なぜなら議会改革とは、市民感覚とのズレを補正しようとする行動でもあり、広義の議会人ながら公選職でないこと自体が、強みとなるケースも多いと感じるからだ。

 だが、漫然と議会局での日々を過ごせば、当初の違和感は徐々に薄れ、いつしか市民感覚で俯瞰することもなくなって、現状を変える必要性も感じなくなる。「チーム議会」の構成員として、議会の世界で結果を残そうと思うのであれば、転入時の違和感を決して忘れないことだ。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

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第50回 議事機関の本質に適う広聴活動とは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年5月号)

 先月号では、議会の世界を俯瞰すると、違和感を覚えることがあると述べたが、それは重要な改革の動機となり得る。

 今月号では議会広聴の常識に関して、私自身が覚えてきた違和感への対案とも言える、大津市議会独自の広聴制度について述べたい。

■議会広聴に関する違和感
 議員は選挙で住民の代表として選ばれた存在ではあるが、当選によって全てを白紙委任されたわけではない。市政課題ごとに住民意見を施策に反映させるためには、議会への住民参加は必須要件であろう。

 だが、本来的な議会活動である本会議や委員会審議とは無関係に、議会報告会(住民との意見交換を主旨とするものを総称)を行うこと自体が議会の広聴活動との考えには違和感を覚えてきた。

 もちろん一つの手法として否定はしないが、テーマが必ずしも議案等の重要課題ではなく、公式会議録が残されない手法が、議事機関の広聴活動として最優先されるものとは思えないからだ。

■独自制度検討に至った経緯
 大津市議会では令和元年9月議会で、公民館をコミュニティーセンターに順次移行させることを主旨とする、コミュニティーセンター条例案が審議された。その際に地方自治法(以下「法」)115条の2に規定する公聴会(以下「法定公聴会」)開催が検討されたが見送られた。

 法定公聴会の開催対象は議案、請願等とされているため、上程されてからでなければ開催の公示はできない。公述人の公募期間を確保すると、通常の会期日程で採決まで終えることは、事実上困難だからである(詳細は20年3月号参照)。

■「市政課題広聴会」の概要と未来
 その課題に対処し、法定公聴会と同様の目的を達するために、大津市議会では議案上程前に市政の重要課題に関して、議場等で市民意見を聴取し公式会議録に残す「市政課題広聴会」制度を4月に創設した。

 法定公聴会の課題は、前述の会期日程との整合のほか、議案上程された段階で初めて一般市民に意見を求めても、議案審議に反映させるには事実上遅過ぎるというところにもある。市政の重要課題は突然、議案上程されることなどなく、それまでに利害関係者間で非公式に調整され、方向性が事実上決まることも多いからだ。

 また、重要課題の全てが議案になるとは限らないことも、法定公聴会の制度設計上の課題である。

 したがって、法定公聴会では対象が議案、請願等に限定されているが、「市政課題広聴会」では、議案上程が予想される課題はもちろん、それ以外の重要課題も対象とした。

 それは、議案上程の有無にかかわらず、重要課題に対する市民意見を、公式会議録に残すことが、議会としては重要だと考えたからである。昨今の公文書管理に対する問題意識と同じく、住民代表機関が市政課題に関与するなら、議員と執行機関の発言だけではなく、市民意見も公文書として保存される会議録で、後日確認できるようにすべきである。

 そのためには「市政課題広聴会」を議会公務とする必要があり、法100条12項の「協議等の場」に位置付けることとした。

 今後は、議事機関の本質に適う広聴制度としてはもちろんのこと、立法機関としての政策形成過程における広聴制度としても定着するよう、局職員の立場から尽力していきたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。