「2番目に狭い」奈良・三宅町、ハンディ逆手に起業支援
人口がわずか7000人弱の奈良県三宅町が、スタートアップ創出に向けたプログラムを始める。20代の起業家を集め、少子高齢化など町が抱える課題を解決するサービスの実証実験を促す。スタートアップの成長に必要なヒト・モノ・カネには乏しいが、小さな規模から手軽にアイデアを試せる実験場の役割を目指す。
三宅町の「ローカルスタートアップ事業」は、政府のデジタル田園都市国家構想事業の採択を受けた。交付金を生かして3年計画の初年度は1100万円の事業費を見込む。森田浩司町長は「全国で2番目に小さい町から、世界に羽ばたくスタートアップを生み出していきたい」と意気込む。
10月から半年間、月1回のペースで、ビジネス連絡ツールのチャットワークを創業した山本敏行氏、ベンチャーキャピタル(VC)の投資家などが登壇し、起業のノウハウを講座形式で教える。対象は主に25歳以下の若者で、大学生や起業を検討するビジネスパーソンなど10人程度の参加を見込む。出身地や居住地は問わない。
講座などはあえてオンラインで中継せず、町に足を運んでもらう。起業における直接コミュニケーションの重要性、支援者らとの距離の近さを感じてもらう狙いだ。
9月2日、三宅町で開かれたシンポジウムには、講座への参加を検討する若者や金融機関の関係者など30人近くが参加した。森田町長は「自分サイズの挑戦に一歩踏み出すことが大事。ここは失敗もしやすい町だ」と話し、成長につながるトライアンドエラーに適した場所だとアピールした。奈良県出身で大阪府在住の会社員女性(24)は「様々な形で起業できる可能性があることが分かった。リスクがあるなかで町がバックアップしてくれるのがいい」と話す。
起業家や投資家は東京をはじめ大都市圏に集中するが、「大都市では新しいことを始めるのが難しくても、三宅町は住民との距離が近く理解が得られやすい」(森田町長)という点を打ち出す。小さな町でのスモールスタートは、事業モデルを磨き、他地域に展開していくのに有効なことも多い。
Another works(アナザーワークス、東京・港)は20年、三宅町と包括連携協定を結び、副業人材のマッチングサービス「複業クラウド」を自治体に初導入した。もともと全国の自治体に広げる計画だったが「実績がないと導入を検討してもらえない」(アナザーワークス)。これまで累計で20人近くが三宅町で副業として働き、それを見て全国100程度の自治体が導入を決めた。
三宅町には課題が山積している。人口は1993年の8672人をピークに減少を続け、今年9月には6564人となった。高齢化が進み、買い物のできる場所に乏しく移動バスも少ない。農業人口の高齢化や水害対策も課題だ。森田町長は「新たなビジネスモデルで課題解決できれば、全国に横展開できる」と指摘する。
今後、スタートアップに必要な資金を提供できるかどうかが重要になる。三宅町のプログラムを通じて新規事業のアイデアを構想しても、投資するVCや融資する銀行がいなければ事業は実現しない。町長やプログラムの登壇者らのネットワークを生かし、金融機関をいかに起業家につなげられるかが問われる。
(仲井成志、高田哲生)