行政側も苦しい「胸の内」地方自治体の公共施設は「もはや維持できない」

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行政側も苦しい「胸の内」

地方自治体の公共施設は「もはや維持できない」

高度経済成長期に建設された公共施設が老朽化し、地方自治体の重荷となりつつある。このまま放置すれば維持管理費を自治体財政で支えきれないことも予想され、総務省は施設の解体、集約費用を調達する地方債を創設、後押しを始めた。釧路公立大経済学部の下山朗准教授(地方財政論)は「人口減少時代を迎え、公共施設の維持管理コストの増大は避けられないが、十分な対応ができている自治体は少ないのではないか」とみている。整理の先送りは子や孫の世代につけを回すことになるだけに、早急な対応が求められている。

執筆:政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

photo閉館したまま放置されている徳島市立文化センター=徳島県徳島市徳島町

(写真:筆者撮影)

利用されない公共施設がやがて自治体の負債に

徳島県徳島市の中心部にある市立文化センター。築50年が過ぎて老朽化が目立ち、コンクリートの壁が変色、ところどころにひび割れが入っている。かつて有名アーティストのライブ会場、市民の文化活動発表会の舞台となった面影は感じられない。

文化センターは高度経済成長期の1963年に開館した。備えているのは、ステージ付きで1,280人収容のホールと、30~100人を収容する7つの会議室。JR徳島駅や市役所に近い便利な場所にあるが、2015年3月に閉館されたまま、放置されている。

閉館されたのは耐震診断の結果、強度不足と判定されたからだ。耐震工事には22億5,000万円の費用がかかると試算されている。市は文化センターに代わる新しいホールを中心商店街の新町西地区に建設する計画を持っていたため、2015年6月に廃館、解体と決めた。

しかし、2016年3月の市長選挙で新ホール建設反対を掲げて立候補した新人候補が現職を破って当選し、建設計画を白紙撤回したことから、文化センターを活用するかどうか再検討することになった。「再検討の結果が出るまで対応を決められない」と徳島市文化振興課。今のところ、宙に浮いた状態が続いている。

市は2005年、財政危機宣言をするなど厳しい財政状況に陥っている。市内には徳島県が所有する5,000人収容のアスティとくしま、800人収容のあわぎんホールがあり、新町橋東公園などには屋外ステージもある。文化関係者の間では「1,200人規模のホールがほしい」との声があるが、「人口減少が続く中、3つもホールが必要なのか」と疑問視する市民もいる。

こうした利用されない公共施設を抱えているのは、徳島市だけでない。わずかな利用しかなく、閑古鳥が鳴く施設も含めると、全国ほとんどの自治体が過剰な公共施設を所有しているといえるだろう。放置を続ければこれらが将来の負債として自治体に重くのしかかる。

中でも平成の大合併で行政区域を拡大した自治体は、旧市町村に過剰な公共施設を抱えている例が目立つ。住民に合併を承諾してもらうため、古い施設があるにもかかわらず、新たな施設を相次いで建設したところが多いからだ。

ほとんどの自治体が対策を先送り

2016年版地方財政白書によると、全国の自治体が保有する公共施設は、公営住宅が約240万戸、公立保育所が約1万施設、公立老人ホームが約780施設、公立高校が約3,600校、市民会館など公会堂が約3,300施設、体育館が約6,600施設に上る。

このうち、かなりの部分が老朽化するなどして解体せざるを得ないとみられているが、ほとんどの自治体が財政難から対策を先送りしているのが実情だ。

このため、総務省は2014年度から施設解体に使う新しい地方債・除去債の発行を認めた。さらに2015年度からは施設の集約事業に充てる最適化事業債も創設した。

自治体がこれらの地方債を発行するには、施設の保有状況や将来の計画をまとめた公共施設等総合管理計画の策定が必要になる。2015年度までに全体の24.8%に当たる約440の自治体が計画を策定した。

総務省財務調査課は「過剰な公共施設を抱えたままでは、自治体の財政負担が大きい。2016年度中にはほとんどの自治体が総合管理計画を策定する見通しだ」としている。

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総務省が提示した公共施設の「総合管理計画」の公表例

(出典:総務省)

米子市は施設面積の20%、千葉市は15%削減を計画

鳥取県米子市は3月末、公共施設等総合管理計画を策定、公共施設の削減に踏み切る考えを示した。市内の公共施設の多くが1960年代から70年代にかけ、建設されたもので、維持管理に莫大な費用がかかるためだ。

市内には市庁舎や学校、公民館など約400の公共施設があるが、半数以上が大規模改修工事を必要とする目安の築30年を過ぎている。市の試算では、建て替えや改修でこれらの施設を維持するには、今後40年間で3,800億円余りの予算が必要になる。1年間だと95億円になる勘定だ。

市の一般会計当初予算額は約610億円。市は人口減少と高齢化の進行で厳しい財政事情が続いているが、このまま施設を保有し続ければ、予算の15%以上を維持管理に費やさなければならない。

このため、市は市役所旧庁舎のうち築54年を過ぎた部分の取り壊しを検討するなど、今後40年間で公共施設延べ床面積の20%を削減することを決めた。さらに、道路や橋梁などインフラ施設に対しては、長寿命化を推進する。

米子市行政経営課は「このまますべての公共施設を維持し続けることはできない。市民に厳しい現状を理解してもらい、必要な施設を残していけるよう努めたい」と苦しい胸の内を打ち明けた。

千葉県千葉市も1月、公共施設等総合管理計画を策定し、施設の統廃合に動き始めた。首都圏はまだ人口増加が続いているが、2020年をピークに減少に転じると予想されている。

市は学校や体育館、市営住宅など1,000を超す公共施設を保有する。施設をそのまま維持すれば、今後30年間に必要となる予算は6,800億円余り。2012年度から3年間の実績でみた投資額は4,200億円足らずに過ぎない。不足額を埋め合わせるためには、施設面積を15%ほど減らす必要がある。

既に中央区のJR蘇我駅近くでは、蘇我勤労市民プラザと蘇我コミュニティーセンターを統合した。会議室の貸し出しなど機能が似ていたためで、市民プラザにコミュニティーセンターの図書室などを移し、4月から新しい蘇我コミュニティーセンターとして再スタートを切った。これに伴い、築36年と古いコミュニティーセンターの建物は廃止している。

千葉市資産経営課は「高度成長期だけでなく、市が1992年に政令市へ移行する前に建てられた施設も老朽化してきた。将来の負担を軽減するため、早急な対応検討が必要だった」と狙いを説明する。

統廃合推進には住民との情報共有が必要

中でも事態が深刻なのは、人口減少と高齢化の進行にあえぐ過疎地域だ。上水道や下水道といった企業会計で保有する施設についても巨額の更新費用が見込まれる。このため、面積が広く、人口密度の低い地域ほど余分にコストがかさむ。

しかも、公共施設の整備が高度成長期やバブル期に一気に進められたため、更新時期が重なってくる。歳入の減少と歳出の増加は過疎地域の構造的な問題だ。そうした大きな制約の中で実行するためには、1日も早く長期的な計画を立てなければならない。

だが、地元から公共施設が消えるとなると、住民から反対の声が上がるだろう。下山准教授は「更新費用をしっかりと算定し、その情報を住民と共有したうえで、どの施設を残すのか決定すべきだ」と指摘する。すべての施設を残すことが困難なことを住民に認識してもらう必要があるわけだ。

安易に計画を先延ばしにせず、次の世代につけを回さないようにすることも忘れてはならない。下山准教授は「場当たり的な対応を取ってはいけない。自治体は世代間の不平等が極力緩和されるよう財政負担の平準化を考えてほしい」とアドバイスしている。