行政内における意思決定の研究

地方政府における行政組織の2009decision-making-all

引用

行政においても、この「事後の批判を避ける」というインセンティブは同様に働く。
先述の政策評価をはじめ、事業の決定に当たり事前に住民を交えた委員会への諮問を行ったり、事業説明会やパブリックコメントを実施するなど、形式的とはいえ、住民の理解を得るための様々な手段を講じているところである。
しかし、このような住民理解を得るための取り組みが行われてもなお、行政組織の意思決定の本質については依然として未知のままである。
我々は、実施された数々の事業のアウトプットの外見を観察し、国会や自治体議会における答弁等で行われた意思決定の説明を聞くことはできる。
しかし、行政組織の内部において、政治によって示された大きな方針を実現していくための意思決定や、日常的に行われている簡易な意思決定の数々が、どのような考え、どのような理念、どのような文化に基づいて行われているのかは、その外面から推察するほかない
加うるに、この行政組織の意思決定は、従前からその秘密主義や前例踏襲主義がつとに悪名高いところである。
果たして行政組織は、意思決定を行うに当たって地域の課題をあくまで他人事と捉える第三者なのだろうか。
あるいは、「行政の無謬性」を根拠に常に自らの規模と権益の拡大のみを指向する組織なのだろうか。
それとも「公僕(パブリック・サーバント)」という呼び名の示すごとく、住民に仕えそのために懸命に働く存在なのだろうか。そして、そもそもその意思決定はどのようにあるべきなのだろうか。

「住民には専門的知識が不足している」という行政や議会による主張は、住民になるべく関与してほしくない、させたくないという意向に基づいてなされる面が強いと思われる。しかし、上記の考察によれば、
住民は分かりやすい説明を受けさえすれば正しい判断を下すことができるのである。さらに、第2章でも考察したとおり、地域の成熟化に伴い住民の高学歴化も進んできている。例えば、永年大規模組織で働いてきた住民と、就職して数年間のキャリアしかない行政職員を比較したとき、いずれが専門的知識に優れ高度な決定を行うことができる主体なのであろうか。これらのことを踏まえれば、「専門的知識の無い住民には専門的知識を必要とする高度な政治的決定を行うことは困難である」という主張もまた否定されよう。

意思決定への多様な住民意思の反映は、多数の主体が自治行政に関与することによって民主性が高まることにつながるとともに、相反する複数の利害間の交流と交渉の機会を提供し合意形成を促進するものである。また、それは意思決定過程への多様な者の参画と協働を前提とするものであり、このようにすることで、行政組織と住民等の相互理解と信頼関係の構築も進み、決定された事項の実現可能性も高まることとなる。従って、意思決定の有効性を測る指標としての「民主性」という概念については、そこにどれだけの多様な「住民意思の反映」がなされたかによって測定されるものとなる。

この自治効率を向上させるためには、的確な評価の実施などによる行政コストの削減に加え、多様な意見の中で合意形成を図っていくという行政運営が必要となる。

同書においては政策形成過程について、実際に議会の審議項目に載せるかどうかや利益集約、関係者間の折衝・調整などの実務的な項目についても各段階の一つとして詳述している。これらは地方政府の意思決定過程において重要な構成要素ではあるが、本研究においては意思決定の全体的な政策の分析を目的としているためそこまでの細分化は行わない。