議員呼称 「先生」NG広がるか…大阪府議会新ルール、職員「距離縮まる」の声も

2022/10/15 15:00
読売新聞のサイトから
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20221015-OYO1T50011/

 大阪府議会が、議員を「先生」と呼ばないよう府職員に求める新たなルールを決めて2週間が過ぎた。国会や全国の地方議会に広がることを期待して投じた一石は、戦前からの慣例を変えることにつながるか。(真崎公美)

 「先生……、じゃなくて議員ですね」。10月上旬、府庁で府議と話していた職員が、呼称の見直しを思い出して言い直すと、府議は笑顔で受け流した。

 「先生」呼称の取りやめは、9月28日の府議会で、森和臣議長(大阪維新の会)と三宅史明副議長(公明党)が「職員が『先生』と呼ぶと、議員との間で心理的な上下関係を生み、議員が勘違いしやすくなる」と提案したのがきっかけだ。

 維新、公明、自民党の主要3会派は今後、「議員」や「さん」などと呼ぶことで合意。府も同調を決め、職員への浸透を図っている。

 森議長は「府議は府民に選ばれている立場。先生と呼ばれるべきではない」と変更理由を説明する。

 職員には「議員との距離感が縮まる」と前向きな受け止めのほか、「80人以上いる府議の名前を覚えるのは大変。ど忘れした時に使える『先生』は便利だったのに」と本音も漏れる。

姫路で浸透

 府議会より先に「先生」呼称を見直したのは兵庫県姫路市議会だ。1999年、当時議長だった竹中隆一市議(68)が議会改革の一環で、「君」が一般的だった本会議での呼称を「議員」に統一することを提案。同時に「先生」という呼び方をやめることも決めた。

 民間とかけ離れた呼称に若手議員らが違和感を覚えたためで、竹中氏は「市民に親しみを感じてもらい、政治に関心を持つきっかけになればと提案した」と振り返る。

 その後、市は職員研修で「議員」と呼ぶよう指導。それから20年超経過した現在、庁内で「先生」と呼ばれることはないという。

国会の慣習「君」

 長年の慣習は、仲間内であっても変えることは簡単ではない。

 国会では、戦前の帝国議会を含め、男女問わず敬称として議員を「君」付けで呼んできた。国会議員は男性が多く、長年の慣習となっているが、一時的に見直された時期はある。

 93年に土井たか子衆院議長(当時)、2018年に野田聖子衆院予算委員長(同)が就任し、「社会では男女関係なく『さん』付けで呼び合うことが多い」などとして、「さん」付けに改めたものの、後任の男性には受け継がれなかった。

 地方議員と衆院議員を経験した藤田一枝さん(73)は1990年代半ばの福岡県議時代に常任委員長を務めた際、「さん」呼称を使ったが、県議会では定着しなかった。

 藤田さんは「国会も地方議会も前例を変えることへのハードルが高い。特に『君』付けに慣れている男性議員はなかなか変わらない」と指摘。その上で「『先生』や『君』などの議員呼称は、政治が市民感覚とずれている一つの象徴。時代に合わせて見直していくべきでは」と話す。

なぜ先生?、二つの説

 議員はなぜ「先生」と呼ばれるようになったのか。地方政治に詳しい法政大の白鳥浩教授によると、二つの説が有力という。

 一つは、議会制度が始まった明治期、議員には資産家を中心とした有力者が多く、議員のそばで秘書のような役割を果たしていた書生が「先生」と呼んだことから広まったとの説だ。

 また弁護士や大学教授といった元々「先生」と呼ばれる職業の出身者が議員に多かったとの説もある。

 「先生」の呼称は国会から都道府県議や市議に広がり定着した。兼業が多く、有権者との距離が近い町村議の間では「さん」呼称も少なくない。

 白鳥教授は「市民に身近な存在となるための呼称変更は評価できる。ただし、真に住民に寄り添う政治を実現しなければ、単なる話題づくりで終わってしまう」と話す。