少子化対策大綱「集中」に値する行動を 毎日新聞 2015年04月09日

社説:少子化対策大綱 「集中」に値する行動を
毎日新聞 2015年04月09日 02時30分

 政府は少子化社会対策大綱を閣議決定した。「社会経済の根幹を揺るがしかねない危機的状況」との認識を示し、今後5年間を「集中取り組み期間」と位置づけた。

 2014年に生まれた子どもは100万人余で前年より約2.9万人少なく、人口は1年間で26.8万人減った。このまま少子化が進めば地方の衰退や働き手不足は加速度的に進む。掛け声だけでなく、財源確保と抜本的な意識改革が必要だ。

 認定こども園や放課後学童保育の拡充、多子世帯の負担軽減、男女の働き方改革、若者の雇用安定などが大綱に盛り込まれた重点課題だ。

 働き方改革では、20年までに男性が妻の出産直後に休暇を取得する率を80%にするほか、男性の育児休業取得率13%(現在2%)、第1子出産前後の女性の継続就業率55%(同38%)などの数値目標を盛り込んだ。「結婚、妊娠、子育てに温かい社会の実現に向けて、社会全体で行動を起こすべきだ」と訴える。

 男性正社員の長時間労働、女性の出産による離職はこれまでも問題視されながらなかなか改善できなかった。今国会に提出されている「女性活躍推進法案」でも具体的な対策は企業任せにされているのが実情だ。数値目標をどうやって実現させるかが問われているのだ。

 現実には「妊娠や子育てに温かい」どころか、妊娠や出産をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせ、解雇や雇い止め、自主退職を強要されるなどの「マタハラ」(マタニティーハラスメント)が横行している。全国の労働局に寄せられたマタハラの相談は、13年度は約3400件に上る。連合の調査では働きながら妊娠した女性の2割以上がマタハラを受けたと回答している。

 マタハラは男女雇用機会均等法で禁じられており、昨年10月の最高裁判決も妊娠や出産を理由とした「降格」は本人の同意がなければ違法との判断を示した。大綱では「部下の仕事と育児の両立を支援する上司(イクボス)を尊重する企業風土を育てる」としているが、マタハラの加害者は直属の男性上司が3割を占め最多だったとの調査結果もある。もっと厳しい対策が必要ではないか。

 保育園や幼稚園の無償化、経済的に恵まれない家庭の大学生に対する給付型奨学金の拡充など、経済支援も充実させなければならない。財源確保が必要な政策については、これまでも子どもの貧困に取り組む人々などから求められてきたが、見送られることが多かった。

 これ以上、少子化対策を後回しにするわけにはいかない。社会保障政策の軸を若年層に移し、集中的に取り組むべきだ。