議会局「軍師」論のススメ(71-80) 清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 
第71回 議会に機関としての本質的進歩はあったのか?
地方自治 2022.10.13

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 先日、大森彌・東京大学名誉教授から、ご自身の新刊である『自治体議員入門』(第一法規、以下「新刊」)をいただいた。

 大森教授とは、いくつかのご縁の中で共感させられたことも多く、今号では教授の著書を題材に、分権改革後も地方議会に残された課題について、考えてみたい。

■分権改革後の課題の指標
 新刊は、前書きで自著の『新版 分権改革と地方議会』(ぎょうせい、以下「旧刊」)の絶版後に必要性を痛感して示した自治体議員論だと、位置づけられている。旧刊は地方分権一括法施行直後に発刊されたこともあり、第1次分権改革が地方議会の権能に及ぼす可能性について重点的に述べられている。

 その一方で、今日に至るまで継続する議会改革の課題についても、詳述されており、新刊にも同様の記述がある内容が、直近20年間で進歩が少ない分野と言えそうである。

■本質的な議会機能とは
 新刊で著者は、「合議体としての議会が体をなすには、多様な人格の持ち主である議員から出されるさまざまな意見や議論を一つの意思に集約できなければならない。それに不可欠なのが対話・調整・集約のための議員同士の討議」だとする。そして「対話は、当事者の考えが、話す前と後では変わることが前提で、主張と聴取の交換によって合意をつくり出す作業。それには多数派の譲歩と少数派の妥協が必要」と議事機関の本質を端的に説いている。

 だが、旧刊でも「国会をモデルにして執行部側がいつでも出席し、審議とは議員がこの執行部に対し演説口調で質問する形が常態であると観念してしまっているのは、本来おかしいのである」と指摘している。議員同士の討議を中心とした議会運営は、未だに実現されていないのである。

 その原因として両刊ともに指摘するのは、国会を模した配置の議場と、衆議院規則などを参考とした「都道府県議会会議規則準則」を源流とする「標準会議規則」への依存である。議場配置の変更は容易ではないだろうが、会議規則の見直しは新刊でも紹介されているとおり、大津市議会では抜本改正済みであり、やる気次第で可能である。

 特に旧刊で「会議規則自体を変える必要がある」とする最たる理由は、「住民の権利義務規制は規則でなく条例によらなければならないという原則に反する内容を温存している」からだと新刊で詳述している。

 まずは住民視点での「標準会議規則」からの脱却が求められるだろう。

■機関としての進歩はあったのか
 議会を構成する議員のあり方としても、旧刊では「局地的、部分的な利益だけを考えていればよいというのでは、議会は合意形成のできない不毛な対立の場になる」と指摘しているが、新刊でも「議員としての大切な職務は、議会での立法活動(議案の提案・審議・表決)であり、陳情などの仲介活動でも、個別利益の実現に係る『口利き』でもない」と、一般質問と口利きが議員の本分であるかのような世間の誤解を解き、法が求める議員の行動指針を明確に示している。

 分権改革後に様々な議会改革が進展したのは間違いない。だが、議会を機関としての権能から表現した、立法機関、議決機関、議事機関などの本質的機能の面からは、議会は果たしてどれくらい進歩しただろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。


 
議会局「軍師」論のススメ 
第72回 市民による第三者評価の意義は何か?
地方自治 2022.11.24

月刊『ガバナンス』2022年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 「市民が議員活動を評価し、過半数が不十分と判断した場合、議員報酬を半減させられないか」

 これは龍谷大学大学院政策学研究科「地域リーダーシップ研究」(注1)の講義で、ある院生から私に投げかけられた質問である。当該科目の院生は学部から進学した学生のほか、社会人も多数を占めていた。

(注1)科目担当:阿部大輔・龍谷大学政策学部教授。

 私にとっても、議会関係者以外に話す機会は限られ、一般市民の率直な意見に触れる貴重な機会となった。今号では、ごく一部であるが講義での気づきについて記したい。

■講義の概要
 講義では最初に「地方議会をめぐる立法趣旨と現実のズレ」と題し、地方議会の法的位置づけ、権限について概説した。そのうえで総論として、立法趣旨や市民感覚と、議会の現状とのズレを補正しようとすることが改革の意義であり、ズレ幅の大きいところから優先して改革することが求められる方向性であると説明し、各論として大津市議会の議会改革について話した。

 特に議会について法的に考察する際は、現行法の文理解釈に終始するのではなく、制定経緯や立法時の時代背景を含めて考察することが求められると論じた。

 一例として挙げたのは、憲法93条の「議事機関として議会を設置する」との条文に関して、執行機関との対比で議会の本質である「立法機関」や「議決機関」と規定されるべきではないかとの議論である。

 だが、憲法の制定過程を調べれば、マッカーサー草案では「local legislative assemblies」、直訳すれば「地方立法議会」とされていたものが、政府案では「立法機関」という言葉を削るために、「議事機関」へ議会の性格付けを押し戻したとされている(注2)。それは、中央政府が首長優位の体制の下で自治体を統治しようとしていた、当時の政治的背景によるもので、文理解釈の議論からは結論が見えないとの趣旨で説明した。

(注2) 月刊ガバナンス2010年8月号「二元『的』代表制か、二元代表制か」、ちくま新書『地方自治講義』(今井照)。

■市民による評価から見えるもの
 次に、2コマ目の質疑応答で得た気づきについて触れたい。

 大津市議会ミッションロードマップは、議員任期4年間の政策サイクルとして、政策立案と議会改革の工程を定めると同時に、議会活動の評価制度を定め、評価サイクルをも確立したものである。そして任期最終年度には有識者による第三者評価を受けるとの説明の文脈で、冒頭の質問は投げかけられた。

 もちろん現行法上、評価結果と報酬額を連動させることには無理がある。だが、議会人として意識すべきは、このような厳しい質問の背景には、現職の議員に対する強い不信感があるという現実だ。

 「では、あなたが立候補したらどうか」と尋ねたら、「後々なれるようにしたい」という。講義後には「犯罪被害者や貧困世帯を救うために議員になり、議員報酬も半分返還したい。だが、何を勉強し、どうすれば議員になれるのか、実現への道筋が見えない」と議員を志す院生から悩みを聞かされた。

 全国的には議員のなり手不足が社会問題化し、報酬の低さばかりが注目を集めているが、当選までの道筋が見えないとの課題も、市民意見から見えた大事な視点であろう。

 大津市議会では、有識者による第三者評価に市民も加えることを検討しており、今回の講義は私にとっても、その方向性に間違いがないことを再確認する良い機会となった。

*文中、意見にわたる部分は私見である。


議会局「軍師」論のススメ 
第73回 新任議会(事務)局職員に 求められるものは何か?
地方自治 2022.12.22

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年4月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 自治体では4月は定期人事異動の季節である。初めて議会(事務)局(以下「議会局」)に配属された人も多いだろう。異動の受け止め方は千差万別であろうが、今号では筆者の経験をもとに、議会の世界で仕事をするにあたっての雑感を述べたい。

■局職員の既存イメージ
 2月末の「議会制民主主義のあり方を改めて考える」をテーマとした滋賀大学公共経営イブニングスクールで、「議会制民主主義の本音と建前」と題して講演した。その概要は、本会議の花形と思われている一般質問の位置づけなど、「建前」としての立法趣旨と、「本音」が具体化した実態との乖離、それを補正するための大津市議会の議会改革事例を紹介したものである(注1)

(注1) 詳細は、清水克士「議会の『常識』は真理なのか?」(北海道自治研究2018年2月№589)を参照。

 提中富和・滋賀大学産学公連携推進機構プロジェクトアドバイザーからは、従来の本会議のあり方を抜本的に変えるという意味で、「ちゃぶ台返しの論」だと評された。もっとも、既存の議会運営も、議会の主役である議員にとっての利点があればこそ全国で定着しているのであり、議事機関の本質との乖離は、局職員だからこそ客観的に論じられるところもあると思う。

 一方、主宰する石井良一・滋賀大学名誉教授にとっては、既存の局職員像との乖離があったようで「議会事務局における職員イメージは、あがりのポストであり、口うるさくない人や従順なタイプが配置されるとの印象がある。だが、改革を進めようとするならば、議員と同じ目線で考えようとする職員が必要になる。大津市議会局にはどうしてそんな職員が配置されるのか?清水さんは希望して配属されたのか?」と問われた。

 私は議会局への異動を希望したわけでもなく、前所属での仕事に魅力を感じていたこともあり、正直なところ失意の中での着任であった。だが、議会内の合意形成にリーダーシップを発揮してくれる議員の存在もあり、「チーム議会」の一員として議会改革に参画できた実感が、モチベーションアップにつながったことなどを話した(注2)。

(注2) 詳細は、清水克士「行動する議会(事務)局」の役割とは何か?~大津市議会局での実践~」(議員NAVI2022年3月10日)を参照。

■置かれたところで咲くために
 だが、一般的には「自分から配属を望まなかった職員にとっては、議員との付き合いは苦痛である」(注3)とされる。議員と局職員のフラットな関係性を前提とする「チーム議会」の成否は、最終的には議員次第であるが、局職員も最初から議員を忌避していては何も始まらない。

(注3)大森彌『自治体議員入門』(第一法規)。

 私の職場外での知人の多くは、他議会の議員や元議員である。個人的には議員のほうが、個性豊かで魅力的な人が多いとさえ思える。せっかく議会の世界に配属されたのだから、食わず嫌いをせず、議員とのヘビーな人間関係を楽しんでみてはどうだろうか。

 もちろん最初は自分の所属する議会からであるが、慣れてきたら外部での人脈も重要である。それは、自治体議会はスタンドアロンの存在であればこそ、外界に触れようとしなければガラパゴス化が必至となるからだ。内向き思考では、自分達の常識が世間の常識とは限らないことに気づかなくなるので、常に全国の動向や時代の変遷による価値観の変化にアンテナを張っておくことが求められる。

 いずれにしても、置かれたところで花を咲かせられるかは、本人の気の持ち方次第である。新任局職員諸氏の今後の活躍に期待したい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。


議会局「軍師」論のススメ 第74回 オンライン議会実現までにできることはないのか?
地方自治 2023.01.19

■オンライン国会実現の動向
■解釈論によるオンライン化リスク
■当面の対応策としての私案
本記事は、月刊『ガバナンス』2022年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 大津市議会では、令和4年2月通常会議において3人の議員が新型コロナウイルスに感染し、他にも3人の感染が疑われたため、同一日に6人の議員が本会議を欠席した。代表質問等の会期日程であったため、体調的には問題なかったものの2人の議員が発言通告を取り下げることになり、質問の機会を失った。

 ここに至るまでも、2020年4月に市役所本庁でクラスターが発生し、約2週間の庁舎閉鎖に追い込まれた経験から、大津市議会では本会議がリアル開催できない事態が現実に起こり得ると想定し、オンライン本会議の実現に尽力してきた。

 だが、必要となる自治法改正はいまだ実現せず、その間にも地方議会の現場では、議会活動に支障をきたす事態が現実に起きている。

■オンライン国会実現の動向
 衆議院憲法審査会は、本年3月3日に「憲法第56条第1項の『出席』の概念について」との報告書を議決した。概要は、「衆参両院の本会議を開く要件を『総議員の3分の1以上の出席』と定めた憲法第56条について、議員が議場にいる『物理的出席』を原則とする一方、緊急事態が発生した場合には例外的にオンライン出席が認められるとした。その根拠には『議院自律権』を援用することができる」(注1)としたものである。

(注1)読売新聞(2022年3月4日)。

■解釈論によるオンライン化リスク
 解釈改憲によるオンライン国会の実現可能性が出てきたことによって、既に「某議長会の幹部は『地方議会にも適用されることになるだろう』と予測する」と報じられている(注2)。国会準拠論の是非(注3)は別にしても、地方議会のオンライン化が実現するのであれば歓迎すべきと思われるかもしれないが、筆者は行政課長通知(注4)による行政解釈の変更で決着することを危惧している。

(注2)「地方行政」(2022年3月24日号)。
(注3)清水克士「地方議会は国会のアナロジーなのか?」(ガバナンス2022年1月号)。
(注4)総務省自治行政局行政課長名で通知される地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的助言を指す。

 それは、現行自治法に基づくオンライン本会議には文理解釈上、違法性が否定できず、司法判断で議決無効とされる可能性を排除できないと考えるからである(注5)。適法性の担保に絶対などないが、大津市では過去に「行政実例」に従った措置が、最高裁判決で違法とされた苦い経験があり、法解釈が分かれる状況で行政解釈のみを拠り所とする危険性を、実感させられている(注6)。

(注5)清水克士「オンライン本会議がギャンブルでいいのか?」(ガバナンス2020年10月号)。
(注6)清水克士「『行政実例』は水戸黄門の印籠なのか?」(ガバナンス2016年11月号)、最判(昭和59・5・31民集第38巻7号197頁)。

 大津市議会で罹患した議員は、本会議では欠席を余儀なくされたが、委員会ではハイブリッド型オンライン委員会によって、問題なく議員の職責を果たせた。完全なるオンライン議会の早期実現は、いかなる状況でも議員が権利を行使し、その義務を完遂するためには重要である。

 しかし、早期実現のためなら、手法にはこだわらないというわけにもいかない。オンライン議会の実現は、地方議会の現場に訴訟リスクを負わせる解釈論によってではなく、法改正によることが必要である。

■当面の対応策としての私案
 一方で当面の現場対応に関しては、自治体の団体意思決定行為である議案採決以外の議事日程であれば、訴えの利益は生じず、オンライン本会議を現行法の下で強行しても、可罰的違法性もないと思われる。

 また、一般質問は「本会議」で行わなければならない法的根拠はなく、自治法100条12項に基づく「一般質問協議会」を設置し、本会議と同様に公開して会議録を残せば、オンラインでも法的問題はないだろう。

 いずれにしても、法改正が実現するまでの当面の対応策を検討することも、必要ではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である


議会局「軍師」論のススメ 第75回 議会広報の目指すべきものは何か?
地方自治 2023.02.09

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年6月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 大津市議会では、「広報広聴ビジョン」と「同アクションプラン」を策定した。

 前議員任期の議会活動に対する外部評価における、真山達志・同志社大学政策学部教授からの議会広報に関する厳しい指摘が、その策定の契機となっている。

 具体的には、「議会だより」(以下、「議会報」)の必要性を認めつつも「市民は個々の議員が本会議や委員会でどのような質問をしたかに関心があるわけではない。議員毎の議会活動については、それぞれの議員が政務活動費を使って広報すれば足りることである。議会としてどのようなイシューが取り上げられ、何が問題となっているのか、問題がどこまで解決したのか、今後の課題が何かを分かりやすく伝えることが必要であろう」との指摘を受けたものである。

■広報戦略から広報広聴戦略へ
 そのため当初は、「広報のあり方検証」として、議会広報戦略を構築することを前提に改革の議論が始まった。

 だが、無作為抽出市民アンケートの結果、議会報はリタイア層にはある程度読まれていても、現役世代の読者数は急減することが明白となった。特にこれから社会の中核となる若年層からは、紙媒体で一方的に伝えようとすることへの批判が多く、動画やSNSによる双方向性を求める傾向が顕著であった。

 一方、広報内容についても、真山教授の指摘どおり、議会としての意思決定過程を発信すべきとの指摘を市民からも受けた。

 そのため、広報と広聴を一体として再検討する必要性を認識し、議会広報広聴戦略として構築することになった。「民意の反映」が議決機関たる議会の使命であることに鑑みると、議案審議のプロセスにおいて市民意見を聴き、政策に反映させるための議論の内容を伝えることこそが、目指すべき議会広報であると思われたからだ。

■主権者が参画する議会広報
 4月末のオンライン研修会(注)で、議会広報について講演する機会があった。その中で動画の活用例として、大阪府議会の「議員インタビュー」を紹介した。これは一般質問の結果を議員に聞き、動画にまとめたものであるが、議案審議に関して委員長や会派代表者に議論の内容を語ってもらえば、議案審議プロセスの広報手法としても使えるのではないかと提案したものである。

(注)「輝け!議会・対話による地方議会活性化フォーラム」主催。

 総括の前田隆夫・西日本新聞社論説委員の論評における、議会の「公開と参加」の原則や、市民を主権者として意識する重要性の示唆などからは、議会広報は双方向コミュニケーションが成立する媒体によって、市民参画を促進するものであるべきとの方向性も再確認できた。

■議会広報戦略のミライ
 いずれにしても、伝える内容と手法が的外れな広報活動では、その効果は期待できない。

 当面は、議会報も従来からのスタイルで、議会広報の主役として存続するだろう。だが、長期的には、デジタル媒体によって、議案審議における広聴結果に基づいた議会の議論を広報するという、議決機関としての本質的活動に収れんしていくと思われる。

 そして、今模索すべき議会の広報戦略には、広聴あってこその広報との認識を前提に、一対の戦略として構築することが求められるのではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。
第76回 「議会人」としての矜持とは何か? は2023年3月9日(木)公開予定です。


議会局「軍師」論のススメ 第76回 「議会人」としての矜持とは何か?
地方自治 2023.03.09

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 5月に早稲田大学で開催された「全国地方議会サミット2022」(注1)で、「なぜオンラインが必要なのか」とのテーマでの報告依頼を受け登壇した。

注1 ローカル・マニフェスト推進連盟・マニフェスト大賞実行委員会主催、早稲田大学マニフェスト研究所共催、全国市議会議長会・全国町村議会議長会後援。

 プログラム上は、大津市議会でのオンライン議会実現へ向けての具体的取り組みを話すところに期待されていたようだが、既に何回か同様のシンポジウムで話してきたこともあり、今回はオンライン議会を一般化するにあたっての課題に焦点を絞って話した。

 今号では、その時の話に補足して思うところを述べたい。

■専決処分と議員の矜持の相関性
 課題の本質は、コロナ禍でオンライン議会導入の必要性を感じて実用化した議会は、全国的には圧倒的に少数だという現実に象徴される。国は現行自治法でも委員会までならオンライン開催可能との見解を示しているが、実践に必要となる例規整備を済ませた地方議会は135議会で、全国1788地方議会の7.55%。実際にオンライン委員会を開催した地方議会は35議会に過ぎず、全体のわずか1.96%に止まる。(注2)

注2 2022年1月1日現在、総務省調査。

 コロナ禍という現実の脅威に直面しながら、「どうしてオンライン議会実現のために行動しないのか?」と、何人かの他議会の議員に聞いてみた。答えは「議会が開けないことなど、めったに起きることではないので、その時は専決処分してもらえばよい」といった主旨のものが多かった。

 だが、二元的代表制は憲法93条に根拠を置くが、そこには「平時」だけのものとは規定されていない。したがって、首長は当然のこととして、非常時においても執行責任を果たそうとする一方で、非常時に議会にできることなどないとの意識が従前は確かにあった。しかし、今では「議会BCP」(注3)を策定するなどして、常に議会の権能を果たそうとする意識が、全国で定着したものと思っていた。

注3 議会の業務継続計画。地方議会では大津市議会が全国で初めて策定した。

 そのためコロナ禍が収束しない状況下で、最も効果的な対策と思われるオンライン議会実用化の動向が、全国の地方議会でこれほど鈍かったのは正直意外だった。

 また、議員のなり手問題などの解決策としても、介護、出産、育児などの事情を抱える議員が、議員の権利を行使することを容易にするオンライン議会は、大きなプレゼンスを示すことができるだろう。

 ここにおいて顕在化するのは、手法の是非の議論ではなく、いかなる状況においても議会の構成員として、その権能発揮にこだわる「議員の矜持」の問題だということである。

■局職員は「議会人」ではないのか
 さらに、オンライン議会の一般化にあたっては、もうひとつ大きな課題がある。それは、実務を担う局職員の意識である。

 ただでさえ議事運営の実務は先例主義が幅を利かせており、先例のないオンライン議会は、リスキーかつ当面の業務量増大も避けられない。そのため「事務局が後ろ向きで議会のDX化が進まない」といった嘆きもよく聞かされる。

 確かに議会の構成員は議員だけだが、局職員も傍観して許される立場ではなかろう。議会によって、議決機関として常に権能発揮するために、オンライン議会を実現しようとする熱意に差があるのは、局職員にも議会の責務を全うしようとする、「議会人」としての矜持を持ち合わせているか否かの違いもあるのではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。
第77回 立法趣旨に適う課題解決の方向性とは? は2023年4月6日(木)公開予定です。


議会局「軍師」論のススメ 第77回 立法趣旨に適う課題解決の方向性とは?
2023.04.06
先日「請願」に関するグループディスカッションに、コメンテーターとして参加する機会(注1)があり、今号では、その議論の中で感じたところを記したい。

注1 「輝け議会!地方議会活性化フォーラム」主催の定例勉強会。

■「請願」と「陳情」の違い
 「請願」とは、憲法16条で国民の重要な権利として定められ、地方議会においては地方自治法124条の定めによって、議員の紹介により請願書として提出されるものである。議会には法的に受理義務や誠実な処理義務が生じ、一般議案と同様に本会議で採決される。

 一方、「陳情」には法的根拠がなく、住民が議会に要望する事実上の行為とされる。そのため、「請願」と同様に実質審議される議会から、議員への配布にとどめる議会まで、その対応は千差万別である。

■議論における違和感
 各グループでの議論を聴いて、違和感を覚えたのは、多数の陳情を実質審議している議会ほど、請願形式を重視しない傾向がうかがえたことだ。それは、請願形式を採ると内容にかかわらず、紹介議員の属性によって賛否が決められてしまうからだという。事実、同様の理由で請願提出が敬遠され、陳情審査に偏重する議会は、少なくないようだ。

 住民にとっても請願の紹介議員要件は、提出のハードルを高めるため、その観点からも実質審議に付さるのであれば、どちらでも良いと思われがちである。

 しかし、私の違和感の根源は、陳情で良いとする理由が、住民視点での理由というよりも、議会内部での会派事情が優先されているところにある。確かに、請願内容以外で採択結果が変わる実態は好ましくないが、住民には無関係な理由で、憲法に定める権利行使ではなく、事実上の行為に誘導されてしまうことのほうが問題だと感じたのである。

■「請願」にこだわる理由
 片山善博・大正大学教授は著書(注2)の中で、住民視点から「憲法では『何人も』請願する権利を有するとしているのに、事実上そこから締め出される人がいるとしたら、その制度は憲法違反」だとする。「陳情」で良いのではないかとの考えに対しては、「請願」同様に扱われる法的根拠に欠けるため「憲法14条にある法の下の平等に悖るから、やはり憲法違反の誹りを免れない」とし、「請願」であるべきとの考えを示している。

注2 片山善博『片山善博の自治体自立塾』日本経済新聞出版社。

 そして「本来なら地方自治法を改正して紹介議員要件をなくすのが筋」としながらも、当面は「医師会の当番医や国選弁護人を引き受ける弁護士」のように、議員も当番制を敷いて紹介議員要件を事実上解除することを提案している。

 提案自体は賛否両論かもしれないが、可能な限り「陳情」でなく「請願」で受理すべきとの考えには、筆者も同感である。

■立法趣旨に適う議会活動を
 執行機関が法定制度の適用を安易に断念し、独自制度の運用にばかり注力したなら、議会は問題視するのではないだろうか。しかし、地方議会では、議案審議よりも法定外の一般質問が本会議の中心となっていたり、議案審議に関する法定公聴会は活用されず、法定外の議会報告会が議会広聴の本質であるかのような考えが定着している(注3)。

注3  詳細は、清水克士「議会報告会が住民参加の『本丸』なのか?」(ガバナンス2018年2月号)、「議会の『常識』は真理なのか?」(北海道自治研究2018年2月№589)参照。

 だが、法治国家における議事機関としては、法定制度の運用を第一義に考えるべきであり、法定外制度はあくまで次善の策と認識したうえで、活用すべきではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

第78回 議会は「唯我独尊」でいいのか? は2023年5月18日(木)公開予定です。


議会局「軍師」論のススメ 第78回 議会は「唯我独尊」でいいのか?
地方自治 2023.05.18


筆者は7月末の「政策サイクル推進地方議会フォーラム」キックオフ・シンポジウム(注1)で、パネリストとして登壇した。今号では、その場で語ったことに補足して、議会活動評価全般について論じたい。

注1 公益財団法人日本生産性本部主催。

■政策立案と議会改革の必然性
 議会の監視機能発揮の手段としては、検査権、監査請求権、調査権等が地方自治法に定められるほか、一般質問等が標準会議規則に規定され、ある程度定型化されている。

 しかし、議会の政策立案機能については、条例制定権や専門的知見の活用などが法定されるものの、そのプロセスについて定型化されたものはなく、個々の議会で独自に制度構築する必要がある。

 そのため政策立案の前提となる調査研究や広聴手法の確立等、様々な議会改革が求められる。つまり議会改革を進めることが、元来、立法機関である議会の根本的理念を作動させ、「機関としての議会」の活性化と政策立案体制の確立を実現するのである。

■大津市議会の評価モデル概要
 大津市議会では、政策立案機能強化に重点を置いた議会改革を進めており、両者は一対のものと認識している。それゆえ通任期の議会版実行計画である「大津市議会ミッションロードマップ」においては、「政策立案」と「議会改革」の検討テーマを、行程表化し明示している。

 同時に「大津市議会ミッションロードマップ」は、有識者による外部評価をプログラミングした議会活動評価制度でもある。評価で抽出した課題を「次期議会へのメッセージ」として引き継ぎ、新ミッションロードマップ策定の指標とすることによって、議会活動評価を政策サイクルにリンクさせている(注2)。

注2  詳細は、清水克士「『未来を語る議会』であるために~『大津市議会ミッションロードマップ』の目指すもの~」(地方議会人2016年9月号)を参照。

■議会活動評価の必要性
 他議会でも多様な取組みがされているが、議会活動評価が一般化したとまでは言えない。それは公選職の評価は、選挙によって総括されるものであり、評価制度など不要との考えも根強いからだろう。

 確かに首長は、執行機関の意思決定権者としての審判を直接受ける。だが、議事機関で選挙の審判を受けるのは、意思決定権のある議会ではなく、権限を持たない議員個人である。つまり、選挙は議員活動に対する評価とはなり得ても、機関としての議会の活動に対する評価とは言い難いのである。

■評価結果公開と標準化の必要性
 自治体は二元的代表制とされ、執行機関と議事機関が対等、独立の関係にあるが、議会は執行機関の活動の監視を担うものの、議会を監視する機関は制度上存在しない。

 監視機関がないなかで、議会活動の正当性を市民に示すには何らかの客観的評価が求められるが、法的にはそのような制度も想定されていない。したがって、議会自ら評価制度を構築し、その結果を公開してこそ、有権者に対する説明責任が果たされるのではないだろうか。

 また、地方議会は国会や議会間相互の法的関係性がないがゆえに、独尊傾向にあることは否定できない。したがって、自分たちの議会を客観視し、全国における立ち位置を直視できる制度の必要性も感じる。

 その観点からは「政策サイクル推進地方議会フォーラム」の前身の研究会(注3)で策定された「地方議会成熟度評価モデル」は、経営品質の考えも取り入れ、標準モデルとなる可能性を秘めている。個人的にも今後の展開に期待している。

注3 「 地方議会における政策サイクルと評価モデル研究会」。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

第79回 「政策をつくれる議会」に求められるものとは? は2023年6月15日(木)公開予定です。


議会局「軍師」論のススメ 第79回 「政策をつくれる議会」に求められるものとは?
地方自治 2023.06.15

 筆者は、熊本県山鹿市で開催された「今こそ、政策をつくれる議会に!!」と題するシンポジウム(注1)で、パネリストとして登壇した。今号では、その場で語ったことに補足して、議会の政策立案体制の確立に関して論じたい。

注1 「輝け議会!!対話による地方議会活性化フォーラム」主催。

■長期計画の重要性
 行政の継続性と選挙結果の尊重とのジレンマは、首長が交代した時に政策の劇的な転換の形で顕在化する。パネルディスカッションで「それに議会はどう対処すべきか?」との質問を、北川正恭・早稲田大学名誉教授から投げかけられたので、筆者は「総合計画に基づく政策によって統治すべき」と答えた。

 総合計画は予算単年度主義の欠点を補い、行政の継続性を担保する役割も担うからだ。同時に執行機関が予定する政策を市民に公開し、透明性の確保にも資する。

 ところが議会が立案する政策は、市民への公開性に劣る。議会では事前に策定した長期計画に基づく活動が、一般的ではないからだ。だが、これからは議会でも単なる思い付きではなく、長期計画に基づく政策であることが求められるだろう。

■法定権限優先の政策立案を
 一方、政策立案手法に関しては、特に議会の規模に起因する考え方の相違が大きい。多くの小規模議会では議会(事務)局に法務担当者を配置する余裕がないこともあり、首長への政策提言に止まり、議会立法を選択肢と認識しない傾向にある。だが、要望の延長線上の活動が、政策立案といえるだろうか。

 議会の機関としての性格が、憲法上「議事機関」とされていることを根拠に、権能的には条例制定権を保持する立法機関でありながら、あえて地方議会の立法機能を軽視する見解も散見される。

 だが、憲法に「立法機関」ではなく「議事機関」とされた理由は、当時の日本政府とGHQの交渉での法的議論とは無縁な経緯が、歴史的事実として明らかになっている(注2)。一方で「自治立法権は、憲法で保障された自治の中核的な権限」(注3)とされ、首長だけでなく、議会にも付与されている権限である以上、当事者都合での事実上の権利放棄など許されるのだろうか。むしろ法治国家における公的機関の不作為として、憲法軽視の誹りを免れないのではないだろうか。

注2  今井照「地方自治講義」(ちくま新書、2017年)。

注3 幸田雅治「個人情報保護条例改正に地方議会はどう向き合うか」(自治日報2022年8月1日号)。

■独自政策サイクルの必要性
 したがって、「政策をつくれる議会」であるための第一義的要件は、条例制定権を優先的に活用するために、議会立法を可能とする体制を整備すること、そしてその持続可能性を担保するための、PDCAサイクルを確立することであろう。

 具体的には、議会内での合意形成に資する議員間討議の場の制度設計、局職員ともフラットな議論ができる「チーム議会」文化の醸成。法の想定外である、任期を超えた機関としての継続性や政策立案内容の公開性の担保など、独自の政策立案システムの整備。成果レベル向上のため、議会活動評価と政策サイクルをリンクさせることも必要である。

 大津市議会ではそのような機能を、議会版実行計画「大津市議会ミッションロードマップ」(注4)として、通任期での「政策立案」と「議会改革」の目標を行程表化し、外部評価を受ける制度を運用している。すべての地方議会で、それぞれの置かれた状況に適合する、独自の政策サイクルの確立が求められるのではないだろうか。

注4 詳細は、清水克士「政策に強い議会を創る」(日経グローカルNo.321 2017.8.7号)参照。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

第80回 「通年議会」導入の意義は何だったのか? は2023年7月20日(木)公開予定です。


議会局「軍師」論のススメ 第80回 「通年議会」導入の意義は何だったのか?
地方自治 2023.07.20

 先日、ある刊行予定書籍の執筆者から原稿の校閲を依頼された。その際に、本来は担当外であったが、「通年議会」での「専決処分」に関する記述に疑問を感じ、意見交換をさせてもらった。今号では、その論点を整理して私見を述べたい。

■通年議会と専決処分の制度概要
 「通年議会」とは、非常時の議会活動の指針である「議会BCP」とともに、休会期間を無くして議会の活動能力を常時担保するものである。

 従前から定例会の開催回数を年1回として、実質的に会期を通年とする「通年議会」の取り組みがなされてきた。さらに2012年の地方自治法(以下「法」)改正によって、「通年の会期」を定めることが可能となった。その目的の一つは、閉会中の長による専決処分の回避である。

 専決処分には、通年議会(以下「通年の会期」によるものを含めて総称する)との関係では、法179条に定める「議会を招集する時間的余裕がない」ことを要件とするもの(以下「緊急専決」)と、法180条に定める「軽易な事項」についてのみ認められる「委任専決」に大別される。

■議会の存在理由にかかわる問題
 先の校閲時に感じた疑問は、通年議会を採用していても、年度末の税条例改正は緊急専決が妥当としていたことである。

 毎年度末の税法改正によって、自治体でも年度内の税条例改正が必須となる。だが、国会の状況によって、法改正が年度末ぎりぎりになる年もあるため、実態は専決処分する自治体が大多数である。

 一方で、大津市議会が通年議会導入を検討していた2012年当時は、通年議会化によって緊急専決はできなくなるというのが、全国的な共通理解だったと記憶している。

 ところが、執筆者から示された通年議会導入済の16議会の抽出調査結果を見て驚いた。年度末の税条例改正を議決しているのは、大津市議会を含めて3議会だけで、5議会は法179条の緊急専決、8議会は法180条の委任専決をしていたからだ。

 もとより多数説が常に最適解だとは思わないが、直近10年で通年議会の運用の大勢が、これほど変遷しているとは正直知らなかった。

 だが、通年議会の本質からは、突発的な議案でもない税条例改正を、緊急専決するのは、論理的一貫性を欠くのではないか。また、委任専決の適用については、自治体の歳入に関わる議案を、委任専決の前提条件である「軽易な事項」とは言い難いだろう。何より「税条例の改正のように住民に義務を課すような案件を議会審議なしに首長の専決処分で決めることを許容しているのは議会の存在理由にかかわる問題」(注)ではないだろうか。

注 大森彌「自治体議員入門」(第一法規・2021年)170頁

■初心忘るべからず
 2012年当時の大津市議会での通年議会導入の議論の際には、「必要ならば深夜、休日でも本会議を開催すべし」と主張し、通年議会の意義にこだわる議員に、議会人としての矜持を感じた記憶がある。

 また、税条例のみならずコロナ対応補正予算に関しても、通年議会でも専決処分している例が全国で散見されるが、大津市議会では補正予算の緊急専決は、通年議会導入後は皆無である。

 想定外の事態もあり得るので、通年議会における緊急専決を全否定まではしないが、ご都合主義の例外は極力作らないことが、制度本来の意義を見失わないためには必要ではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。
第81回 そこに議会への「愛」はあるんか? は2023年8月10日(木)公開予定です。