第34回 青年会議所(JC)がつくる市民と議員の「対話」の場~黒石JCの「青年(わげもの)と議員が語り合う会」の実践から~
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第34回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「青年会議所(JC)がつくる市民と議員の「対話」の場~黒石JCの「青年(わげもの)と議員が語り合う会」の実践から~」をお届けします。
市民と議員の意見交換会のあり方
このコラムでは、議会報告会、市民と議員の意見交換会のあり方について何度か考えてきました。第14回では、「住民との距離を近づける議会報告会のあり方」として、福岡県志免町「まちづくり志民大学」による、「議員と語ろう!ワールドカフェ」の取り組みを紹介しました。第20回では、「市民との対話が生まれる新しい議会と市民の意見交換会のあり方」として、岩手県久慈市議会によるワールドカフェ型式の「かだって会議」の事例を取り上げました。また、前回第33回の「市民との対話を通して議員報酬の引き上げを実現」の中でも、岩手県滝沢市議会のワールドカフェによる「市民と語る議会フォーラム」について考えました。
市民と議員の意見交換会の実施には、2方向のアプローチがあります。一般的なアプローチは、議会が主催で開催されるものになります。多くは、「議会基本条例」に基づいて行われています。議会主催のものでは、従来、対面形式で行われるケースが多かったですが、最近では、久慈市議会や滝沢市議会の事例のように、ワークショップ形式で行う議会も現れてきました。対面形式による対立構造から、ワークショップ形式にすることで、より市民同士の対話を促そうというものです。そしてもう1つは、志免町「まちづくり志民大学」のような、市民からのアプローチです。
後者は、まだまだ事例が少なく、開催には議員の協力が欠かせません。2014年3月に行われた志免町「まちづくり志民大学」の取り組みには、残念ながら、志免町議会議員14人のうち6人しか参加していません。今回は、市民からの呼び掛けにより開催した市民と議員の意見交換会として、青森県の黒石JC主催で行われた「青年(わげもの)と議員が語り合う会~語り合おう黒石の未来~」を事例に、市民がつくる市民と議員の「対話」の場の可能性を考えてみます。
黒石JCのこれまでの積極的なマニフェスト運動
人口3万5千人の黒石市を中心とする黒石JCは、2015年7月現在メンバーが43人。全国でも中規模なJCの部類に入ります。そんな黒石JCですが、これまで、マニフェスト運動を意欲的に行ってきました(第7回:「青年会議所が担うマニフェスト・サイクル」)。2010年6月の市長選挙に際して、無投票であったにも関わらず、市長候補者が4年間のビジョンを示し、市民が政治に関心を高める場が必要だとの思いから、当時の現職市長を招き、具体的な政策を話してもらう「マニフェスト型公開討論会」を開催しました。また、その討論会を受けて、2年後の2012年11月、市長の「マニフェスト検証大会」を実施しました。JCの中に評価委員会を立ち上げ、市の担当者へのヒアリングも行い、事業の有効性に絞り、JCとしての評価を行うとともに、事業改善提案をまとめました。
2014年6月、再度無投票になってしまった市長選挙に際しても、当時の新人候補を招き「立候補予定者を囲む市民討論大会」を開催、候補者が政策を説明し、市民と意見交換をする場をつくりました。こうした黒石JCの、市民と政治をつなげたいというこれまでの取り組みが、今回の「青年と議員が語り合う会」の実施につながっていったと思います。
「青年と議員が語り合う会」の実践
黒石JCでは、2015年の統一選で8年ぶりに市議選が行われたことを受けて、新しい議員も含めて、議員と若い人との交流を通じて市政に関心をもってもらおうとの思いから、黒石市議会(北山一衛議長)に協力いただき、「青年と議員が語り合う会」を開催することになりました。黒石市議会でも、2012年から議会報告会を開催していますが、参加者の減少や、年配の男性への偏り、陳情や要望が多く前向きな話し合いにならないなどの課題を抱えていました。
語り合う会は、7月16日、高校生から40歳までの市民40人、JCのメンバー20人、合計60人の市民と、議員16人中14人が参加して、「人口減少問題」をテーマに開催されました。市民と議員の間の垣根を作らないように、対面形式ではなく、議員1人に対して市民3~4人の小グループを作り話し合うワークショップ形式で行われました。ワールドカフェのスタイルで運営され、私が司会進行、ファシリテーターを務めました。ワールドカフェとは、カフェにいるようなリラックスした雰囲気の中、小グループ単位で、参加者の組み合わせを変えながら自由に対話し、テーブルの模造紙にその内容を書き留めながら、話し合いを発展させていくワークショップの手法です。
今回は、「人口減少問題についてどう思いますか?」「人口減少対策として考えられることは何ですか?」「人口減少対策として、今、自分たちにできることは何ですか?」の3つの問いで、席替えをしながら進行しました。活発な意見交換が行われ、「一人一人が健康を保ち、長生きする必要がある」「黒石の良さを知ること、伝えることが大事だ」など、模造紙はたくさんの前向きな意見で埋まりました。
自身もJCのOBでもある参加した大溝雅昭黒石市議会議員は、今回の語り合う会を次のように評価しています。
「黒石市議会の議会報告会は議員と市民が対面式で、中身は行政批判と要望がほとんどだったが、今回の語り合う会は同じ目線でいろいろな話ができた。課題に対し一緒に考えるという方法が、若者の興味を引き、地域の将来について考える機会となり良かったと思います」
また、主催した黒石JCの棟方清崇理事長は、取り組みを終え、手応えを次のように話しています。
「今後選挙権が18歳以上に引き下げられることから、若い人に少しでも政治に興味・関心を持ってもらえる機会になったと思う」
JCがつくる市民と議員の「対話」の場
全国のJCでは、これまでも早稲田大学マニフェスト研究所と連携しながら、マニフェスト運動を積極的に展開しています。「マニフェスト型公開討論会」「マニフェスト検証大会」「市民討議会(無作為抽出で選ばれた市民による、決められたテーマで行われる対話の場)」「e-みらせん(各種選挙における個人政策動画、公開討論会動画の公開サイト)」「みらいく(小中学生を対象に、民主主義の価値と選挙の意義を教える教育プログラム)」などの事業を通して、地域の民主主義向上の大きな一翼を担っています。
今回の黒石JCの取り組みは、JCのマニフェスト運動に新しいバリエーションを加えるものになりました。JCが主催で市民と議員の意見交換会を開催することは、会の運営の公平、公正性も担保されるので、議員の理解と協力が得やすいと思います。また、JCには事業運営の機動力が十分にあります。議会が苦手としている、若い人の集客も期待できます。これまでの議会主催の議会報告会、市民との意見交換会が変わるきっかけにもなると思います。新しい、市民と議員の意見交換会のあり方として、黒石発、JCによる市民と議員の「対話」の場が、全国に広がってもらいたいと思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。