朝日新聞デジタル記事(県立工科大撤回問題 奈良県知事と地権者の議論紛糾)

朝日新聞デジタル記事
机美鈴2023年7月22日 10時30分

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県が大学を新設する意義はないとの持論を、資料を示しながら説明する山下真知事=奈良県三宅町石見の石見公民館
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奈良県の山下真知事が、同県三宅町に県立工科大をつくる前知事の方針を撤回したことを受け、地権者を対象にした説明会が20日、同町で開かれた。地権者の激しい反発にさらされた知事は硬い表情で「不安や戸惑いを与えたことをおわびする」と頭を下げたが、「県に大学を新設する余力はない」との持論を繰り返した。

近鉄橿原線石見駅にほど近い7・7ヘクタールの土地は既に買収済みで、地権者は30人余りに上る。説明会には地権者や町議ら約50人が参加した。

知事は「県内大学生の9割が県外に就職しており、定住効果は期待できない」「成功するか不明の大学に巨額を投じるより、医療や福祉などに使う方が有効」「前知事の見通しは甘い」など、大学設置は困難であると説き、民間企業の誘致を代替案として示した。

参加者からは「先祖からの土地を手放したのは、大学新設で地域の活性化を期待したから。詐欺に遭った気分だ」「魅力や特色ある大学をつくれば全国から人は集まる。あまりに消極的だ」「知事が代わっても方針は変わらないと聞いていたのに」など、反発や怒りの声が相次いだ。

高齢化と人口減少が続く中和地域で、大学に未来の希望を託したいと考える地権者に対し、知事は費用対効果を重んじる姿勢を崩さず、1時間余りの議論は平行線で終わった。参加した地権者の一人は「言葉遊びで終わってしまった」と肩を落とした。

知事は取材陣に対し、「地権者の思いは伝わったが、地域の発展に資する土地活用を大学以外の方法で考えたい。高等教育文科省や既存の大学が考えるべきで、自分は知見を持ち合わせない」と話した。

一連の事業見直しで、知事が地権者らと直接協議するのは初めて。「地権者の意見を聞いてほしい」という町側の要望を受けて実現した。知事は21日の記者会見で、求めがあれば今後も話し合いに応じるとしつつも「状況に変化がないと意見を言い合うだけで実りある会にはならない」との見解を示した。(机美鈴)