引用:【よんなな会若手首長セッション】

引用:https://www.holg.jp/holg/yonnanakai4/

いま、地方から起こせる変革とは【よんなな会若手首長セッション#1】

 

(文=金治 諒子)

数百人もの公務員が一堂に会するイベントをご存知だろうか。総務省官僚である脇雅昭氏を代表とする、『よんなな会』だ。

【よんなな会】
47都道府県の地方公務員と中央省庁で働く官僚をつなげることで、日本全体を有機的につなげることを目的とした会。
「著名なスピーカーによる講演」と、「参加者同士の交流会」の二つのコンテンツをセットにして実現しており、関東ではこれまで12回開催、一度に800人以上の公務員が集まった実績もある。

1月27日(日)にこの『よんなな会』が、大阪工業大学梅田キャンパスで開催された。関西初のよんなな会の開催にも関わらず、400人の公務員と100人の学生が一堂に会し盛況を博した。
いま最も勢いのある若手首長、四條畷市・東市長をファシリテーターとしたパネルディスカッション、『若手首長セッション』が開催され、京都府与謝野町・山添藤真町長、北海道江差町・照井誉之介町長、奈良県三宅町・森田浩司町長、新潟県津南町・桑原悠町長が登壇した。

世間では「お役所仕事」「ぬるい」とバッシングされることも多く、地域では身を潜めている公務員だが、そのイメージはすでに過去のものとなりつつあるのかもしれない。筆者がそう感じた会場の熱気を文字に乗せて、皆様にお届けしたいと思う。若手首長は会場の500人にどんなメッセージを伝えたのか。そして、公務員はどんなメッセージを受け取ったのだろうか。

よんなな会1

四條畷市・東修平市長(ファシリテーター)
大阪府四條畷市生まれ。大阪府立四條畷高校、京都大学工学部を卒業し、同大学大学院工学研究科を修了。専攻は原子核工学。2014年に外務省に入省し、環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめ、貿易協定の交渉に関する業務に従事したのち、野村総合研究所インドにて、自動車業界のグローバル事業戦略・経営戦略の策定を支援。2017年に四條畷市長に初当選。全国で最年少の現役市長となる。

京都府与謝野町・山添藤真町長
京都府生まれ。京都府立宮津高校を卒業し、2008年にフランス国立社会科学高等研究院パリ校2年次修了。2010年に与謝野町議会議員に初当選し、2014年から与謝野町長となる。現在2期目。

北海道江差町・照井誉之介町長
東京都目黒区出身。私立明治学院高等学校を卒業し、2008年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業。同年4月、北海道新聞社に就職。2009年から2012年までの3年間、江差支局に勤務した。2014年に北海道新聞社を退社し、江差町長選挙への出馬を表明。当時29歳で最年少首長として初当選。

奈良県三宅町・森田浩司町長
奈良県磯城郡生まれ。奈良県立上牧高校を卒業し、大阪商業大学を卒業。三宅町議会議員を経て、2016年に三宅町長選挙に初当選。町を二分する選挙を制し、当時の現職を大差で破り県内最年少町長となった。

新潟県津南町・桑原悠町長
新潟県津南町生まれ。新潟県立国際情報高校卒業後、早稲田大学社会科学部に入学。在学中に、1年間米国オレゴン大学に単位交換留学を経験。2009年、東京大学公共政策大学院入学。2011年、長野県北部地震を機に津南町議会議員選挙に初当選。2018年に津南町長に初当選。

若手首長はふわふわしている?!

東修平氏(以下、東氏):僕を含めて、若手首長はどうしても「楽しいことばかりやっているんじゃないか」とふわふわした印象で捉えられることもありますが、今日はまず、なぜまちを変えていきたいのか、より良くしていきたいのか、根底にある熱い想いの根源を、それぞれの町長からお話いただければと思います。

山添藤真氏(以下、山添氏):その問いに対しては、10年ほど前の町議会議員選挙が思い出されました。当時、私の目の前に映ったまちの風景は、どこか挑戦的ではない、どこか閉塞感がある雰囲気でした。そうした閉塞感を打破するためには、「若い私たちが挑戦的である姿勢」が、一つのきっかけになるのではないか、と考えました。その想いから、政治の道に自分の役割を見出していったと思います。以後、住民の皆様の共感を通じて、そのチャレンジングな機運が少しずつ広がりつつあるのではないか、と感じています。

よんなな会2

東氏:いま皆様が感じられたことを代弁させていただきますと、山添町長、めちゃめちゃスタイリッシュですよね(笑)。

会場:(笑)。

東氏:僕も初めてお会いしたときビックリしたんですよね(笑)。町長とお会いすると思っていたのに、最初出てこられたときは「ものすごい秘書の方が現れたなぁ」と思いました(笑)。
こんなスタイリッシュな町長はなかなかいらっしゃらないですが、「挑戦するという想いをまち中に伝播する。それによってまちを変えていく。」という、とても熱い想いをお持ちですね。ありがとうございます。

それでは次に、照井町長お願いします。

照井誉之介氏(以下、照井氏):私は、今日登壇された町長とは一つ違う点がありまして、江差町の出身でも、北海道の出身でもありません。新聞記者をやっていて、就職で北海道に行ったのがきっかけでした。その中で、江差町というまちに3年間住んで、新聞記者をやりました。
着任して最初の1週目に、ある男子中学生と出会いました。彼に、「将来どんな職業に就きたいの?」と問いかけたところ、具体的な職業についての返答はありませんでした。ただ、「江差で働きたいんです。」と、その中学生は言いました。私が生まれ育った東京に、そういう魅力はあったのかなぁ、と。ふるさとを想う気持ちは、どうして生まれたんだろうか、とその時疑問に思いました。この子どもが成長し、地域社会の中で生涯を全うできる地域でありたい、そういう地域になれるよう後押しする記事を書きたいと思って、新聞記者として3年間過ごしました。私が思い描いた『ふるさと』、まさにその姿が江差町にありました。少しでも人口減少や少子高齢化を食い止める施策をうっていかないといけない。小さなまちですが、決して日本全体のお荷物ではないと思っています。
例えば食物自給率は100%を超えていますし、自然エネルギーによる自給率も風力発電により100%を超えています。また、育った子ども達が都市部に行って活躍する、人材を派遣するという役割もあります。そういう意味合いからも、東京一極集中により地方が衰退すると、日本全体がダメになる。江差町がダメになれば、日本全体がダメになる、と思っています。そういう想いの中で、江差町を変えていく、人口が減っても、持続可能な地域を作っていくことに、私の人生を掛けていきたいと思っています。
私は最大の移住者だと自分で思っているので、地方から日本全体を考える取り組みができればと思っています。

会場:(拍手)。

東氏:「移住」というのは地方創生でもよく言われることですが、「移住して町長をやる」という選択肢がここにありますね。ご自身で言いづらいと思うので補足を加えると、3年間、江差町で新聞記者をされた後、他の地域に赴任されたそうですが、町長選挙の前に地元の方から「照井さんに出て欲しい」と言われたそうです。そのくらい、たった3年間でまちの人たちを引き付ける熱意を持っていたんでしょうね。

それでは次に、森田町長お願いします。

森田浩司氏(以下、森田氏):私は、町長選挙の1年前に町会議員の選挙に立候補したのですが、「自分の感覚とずれたところで物事が勝手に決まっていく」と議会や行政に感じたことがきっかけでした。外で文句を言うのは簡単ですが、決めている方々は、リスクをとって立候補しているわけですよね。自分もリスクをとって、「自分はこう思う」と同じ立場に立って発言したい、と思いました。議員をやりながら多くの疑問を行政にぶつけてきたのですが、1年後の町長選挙の時に対抗馬がおらず、現職による無投票選挙になりそうだったんです。そんな時、まちを歩いていたら、住民の方から「出てくれ」と泣きながら言われまして、住民の皆様と一緒にまちづくりをしていきたい、という想いが固まりました。いまもこの想いで取り組んでいます。

会場:(拍手)。

東氏:「まちをより良くしていかなければならない」という、圧倒的当事者意識ですね。他に誰もいないなら、自分がいくしかない。それを周りからも泣いてお願いされる状況というのは、おそらく森田町長が姿勢を見せ続けていらっしゃったのだろうと思います。

それでは、桑原町長、お願いします。

桑原悠氏(以下、桑原氏):だんだん目が慣れてきまして、後ろの方が見えるようになりました。老若男女ご参加いただきありがとうございます。

会場:(笑)。

桑原氏:今日は私服で来てくれと言われて、着任以来毎日スーツだったので、何を着てくればいいか迷いながらきました。
私のまちは、冬は雪が3メートルほど降る、日本でも1、2位を争うような豪雪地帯です。高齢化率も40%を超えています。住むのには厳しい環境ですが、そのまちで、医療や教育を当たり前のように受けられる環境にしないといけない、という執念があります。また津南町の景観は、「本当にここに住んでよかった」と心を動かされるほどの素晴らしい景色です。それを多くの人に伝えていきたいなぁという想いで、7年前に町議会選挙に立候補しました。町議会議員を勤める間に、結婚、出産を経て、現在は4歳と2歳の子どもがいます。子育てを通して、子ども達が大人になったときにもっと良いまちにしたい!という、親としての想いが強くなったことから、町長選挙に挑戦しました。厳しい選挙でしたが、まちの人からの「閉塞感を変えて欲しい」と支援いただき、なんとか当選することができ就任半年です。

東氏:ありがとうございます。感じてくださった方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、皆様、言葉の端々に、「あたたかい支えがあって」とか「変えてくれという願いがあって」なんとか当選できました、と仰っておられますが、僕は逆だと思っています。きっと皆様その前に、「自分がこのまちを良くするんだ」という圧倒的に熱い想いがあって、結果的に周りの方々が応援してくださったんだと思うんですよね。

よんなな会3

まちの変革のためには「寛容さ」が重要【よんなな会若手首長セッション#2】

 

与謝野町・山添町長

(編集=金治 諒子)

まちの変革のためには「寛容さ」が重要

東氏:では今日のテーマに入っていくのですが、熱い想いを持って当選された後、現在、具体的にどんな取り組みをされているのかについて伺いたいと思います。
最も任期の長い山添町長からお願いします。

山添氏:与謝野町は、織物業や農業というものづくり産業の発展によって成長してきたまちです。このものづくり産業の持続的な発展が、あらゆる社会問題の解決に結び付いていくのではないかと考えています。着任以降、この問題意識に重きを置きながら施策を積み上げてきましたが、今日は農業政策の一端をご紹介したいと思います。

与謝野町では、農業政策の構築に当たり、「自然循環型農業の推進」と「テクノロジーを通じた農業改革」の二つの柱を持っています。後者についてお話したいと思います。与謝野町の農家では、高齢化による担い手の不足が課題となっています。とりわけ篤農家と呼ばれる農業者が亡くなってしまうと、その方々が40~50年の歳月をかけて習得した技術やノウハウが一瞬でなくなってしまいます。そうした状況に対して、テクノロジーを通じてテクニックやノウハウをデータ化する取り組みを行っています。いま地域にあるノウハウを保全しながら、新規従事者へのオープンソースとして提供していく、ということが進みつつあります。この施策から、テクノロジーは地域の課題の解決に貢献するものであると肌に感じています。様々な課題が山積する地域だからこそ、時代を牽引する新たな提案を生み出していくことができると思っています。このように地域の核を把握することからスタートしましたが、現在ではこのような取り組みをさらに他の分野でも広げています。

ちなみに先ほど東市長からお褒めいただいたこのスーツですが(笑)、実は、町内の織物事業者の方の生地によってできているスーツです。こうした一つ一つの取り組みを丁寧に積み上げてきたことが過去5年間の任期でやってきたことだなぁと振り返っています。

東氏:ありがとうございます。おそらく本日参加されている行政職員の皆様は、普段お仕事をされる中でも、テクノロジーを入れていかなければならない、オープンソース化を進めていかなければならない、という問題意識については既にお持ちだと思うのですが、「オープンソース」と農家の方に説明したところで、「ん?」という顔をされるのではないか、庁内の管理職に説明したところで、「それはなんだ?」という反応が返ってくる可能性が高いかと思うんです。その懸念がありながら、現実的に実行できているのは、どのような取り組みによって可能になったのでしょうか。

山添氏:まず、与謝野町の皆様が元来持っている性質として、あらゆる物事に対して寛容である、ということがあると思います。この「寛容である」というのは、地域を作り上げていくに当たって大変重要だと感じています。何か知識を共有することに対し怖れを持たない、という点があるかと思います。そうした住民性があるからこそ、新たな提案に対しても、戸惑いや不安よりも、「どうしたら活用できるか」という方向に意識が向いたのではないかと。ただし、戸惑いや不安をお持ちの方には、私や担当職員が懇切丁寧に対話を繰り返すことで少しずつ理解を深める、ということを日常的に繰り返しています。

東氏:なるほど。丁寧に丁寧に、「こういうことだよ」と住民の方々に納得いただけるまで説明を積み重ねていらっしゃるということですね。

山添氏:そうですね。当然そうした対応は大切です。けれども、私がより重要だと思っているのは、先ほど前段で申し上げたことです。人が成長するためには、相手の主張を聴いたり、相手の提案を受け入れたり、そうした包摂や寛容という精神があってこそできることなのではないかと思います。こうした意味で、私たちのまちはものづくり産業の歴史を通してその精神が根付いており、その精神を持つ皆様と一緒に日々行政運営をさせていただけることは、とても幸せなことだなぁと感じています。

津南町・桑原町長

津南町・桑原町長

 町長着任後の実行速度を考慮し選挙前から仲間づくり

東氏:なるほど。任期の長い山添町長とは反対に、桑原町長は、おそらく町長選挙までに「こんなことやりたい」「こんなところを変えたい」という想いをたくさん持って着任され、まだ半年くらいかと思いますが、新しい取り組みをやろうとしてもなかなか難しい点が多いかと思います。半年経って、こんなことをやっている、という取り組みがあれば教えていただけますか。

桑原氏:実は町長選挙に出る前に、町内でブレーンになってくれそうな方々と将来の政策について、「こうしたら良いよね」と話し合っていました。私はその話を基にマニュフェストを作ったんです。町長になった後スムーズに事業が進むように、あらかじめ色々と話し合っていたので実際にうまくいくことやいかないことはありますが、当選後の実行速度はこれでも速かったように思います。

東氏:はじめに、町長になった後の実行速度まで考えてマニュフェストづくりの段階から仲間づくりをされたんですね。
いま一番力を入れているところはどんな分野でしょうか。

桑原氏:いまは観光が産業として伸びているじゃないですか。津南町は雪国なのですが、「雪国観光圏」という広域の観光圏に入っているんです。その「雪国観光圏」では、例えば体験プログラムを行うなど、各市町村が実施するコンテンツの質の向上が課題となっています。そこで、津南町のDMOを立ち上げて、観光のマネジメントをしてもらおうと準備しています。

東氏:なるほど。町長はあっさり仰っておられますけれども、これは、事前にあらゆるステークホルダーを説得してきたからこそできたことだと思うんです。まずこのスピードで進んでいること自体に、僕は非常に驚いています。

住民の顔が見えるまちだから、東京にはできないことを目指す【よんなな会若手首長セッション#3】

 

江差町・照井町長

(編集=金治 諒子)

職員に嫌がられても巻き込んでいく

東氏:桑原町長は、生まれ育ったまちであり、すでに人間関係がある中で関係性を築いていかれたかと思いますが、江差町の照井町長の場合は、本当にゼロから構築されて町長になった、という経緯があるかと思います。そのあたりは、どういうふうに巻き込みながらやっていらっしゃいますでしょうか。

照井氏:私は移住者ですので、外から見たこのまちの魅力、そして課題がどこにあるかを感じながら、3年間新聞記者として過ごしました。その中で、我々のまちは北海道の中でも歴史の古いまちであることがわかったんです。江戸時代、北前船という船が大阪を出発して最後に行き着くまちが、江差町でした。函館でも小樽でもなかったんです。

江差町では、例えば、京都の祇園祭の流れを汲んだお祭りが現在でも毎年行われています。そういう文化や歴史がある一方で、それらを活かして経済行為に繋げられているか、持続可能なまちとして受け継いでいける体制になっているかについては、まだまだ十分ではないと考えています。

一方で、江差町ではおそらく東京のような所得を得ることは難しいですが、時間を有効に使った有意義な生き方ができるのではないかと考えています。私は東京に住んで高校も大学も一時間半かけて通っていましたけれど、いまは役場まで5分です。どれだけ有意義に時間を使えるんだろうと思います。豊かさを求めるのではなくて、マイナスをゼロにする。それが行政に求められていると考え、現在は「不幸ゼロのまち」を掲げて施策に取り組んでいます。

例えば、自殺者をゼロにする、いじめをゼロにする、児童虐待をゼロにする。人口8000人を切ったまち、地域住民の顔が見えるまちだからこそ、東京にも神奈川にもできないことをやっていこう。そのためには行政だけでなく、地域住民を巻き込んで一緒にまちを作っていく必要性を感じています。職員からは嫌がられますけれども(笑)、アクションプランを作って、しっかりと住民を巻き込みながらまちづくりを進めています。

東氏:いま仰っていただいた中で、ぽろっと、北海道では言えない言葉があったかと思いますが(笑)、とはいえそれは、職員だってまちを良くしたいと思っていて、町長もまちを良くしたいと思っているからこそ起こる対立だと思うんです。「自殺者ゼロ」「いじめゼロ」は非常に高い目標だからこそ、それをどういう観点で掲げてアクションプランまで落とし込んでいくのか。具体的にどんな取り組みを職員と一緒にやられていらっしゃいますか。

照井氏:まず前提として、小さなまちで職員の数も100人程度と少ないものですから、すべての事業を完璧に行うことはできません。そのため職員に対しては、私の想いを本気で伝えて、力を入れるところと手を抜くところを納得してもらうようにしています。例えば、国から示される様々な計画を策定することはこの人員ではなかなか骨が折れるのですが、しっかりと職員に説明して本気で取り組んでもらっています。

一方で、財源が縮小していく中では行政サービスを取捨選択していかなければなりません。住民の理解と協力がなければ成り立ちませんから、私が先頭に立ってまちに出て、住民の方々を巻き込んでまちについて気軽に話してもらう、「まちづくりカフェ」という取り組みを行っています。中学生や高校生からお年寄りまで参加してくださり、どういう地域像を目指していくのか、という話し合いを月に一度の頻度で積み上げている段階です。

東氏:なるほど。限られたリソースの中での取捨選択は非常に重要なキーワードだと思うんですが、行政が決めた取捨選択ではなく、「まちづくりカフェ」でざっくばらんに話しながら取捨選択を住民と一緒に分かち合っていくというイメージですかね。

三宅町・森田町長

三宅町・森田町長

失敗する組織をつくっていこう

東氏:取捨選択といっても、「取」されるほうは良いですけど、「捨」されるほう(の理解、納得)はなかなか難しいのかなぁというふうに思っています。(登壇前に)控室で話していたんですが、やっぱり、これから選んでいかなければならないこと、撤退をしなければならないことがたくさんあるので。その中で、森田町長も鼻息荒く話されていたので(笑)、その辺り教えていただいてもよろしいでしょうか。

森田氏:これからの時代確実に人口減少がくる中で、例えば僕が50歳になったとき、いまの行政規模で行っていくことは不可能だと思っています。それこそ当事者意識を持って、自分が50歳になったときにはどんな世の中になっているだろうなぁと考えながら、その中でいまから準備をする必要性があるのかなぁと。福祉もあればみなさん嬉しいですし、必要だというのは誰しも思うことなんですけど、じゃあどこまでどれだけのサービスができるのか、公平性はどうなのかというのは、いまから議論を始めないと、50年後の未来は変わっていかないのかなぁと思っています。その議論をするためには、日常頑張ってくださっている職員の成長が大事になってくるのかなぁと。

先ほど照井町長が仰ったように、住民さんと一緒にまちづくりを掲げて、タウンミーティングとかまちづくりトークでお話をするという事業をするのにも、僕は1年かかりました。ただ住民さんと話す(事業を実施する)だけでも1年かかる。なぜか?職員からすると、こういうことをすると、こういうマイナスがありますよ、と。マイナスの要素はすごく教えてくれるんですけど、「やってみよう」というのがなかなかなかったんです。

僕がいま具体的に職員さんと取り組んでいるのは、失敗してもいいじゃないかと。やってみてわかることを活かしていこうと。失敗する組織をつくっていこうと、いまいろんな取り組みをさせていただいています。その中でも(意識が)内向きになりがちなので、脇さん達トップランナーを三宅町にお呼びして、職員の刺激になるような講演や懇親会を開催したりしています。それでもまだ、「何がしたいのかわからない」「あの人何の話をしてはるのかわからない」という感想があるのが現状でして、意識高い職員さんと普通の職員さんの差が非常にある。これもやってみなかったらわからなかったことですし、それがわかることによって、自分がどんな伝え方をすれば良いのかを日々考えています。

ここにいる皆様も、伝え方を工夫して、想いをうまく伝えることによって1%でも2%でも(意識が)上がる取り組みになっていくのかなと。それが住民さんの未来のためにも繋がるのかなと思っています。

東氏:ありがとうございます。

1億円の範囲なら失敗しても大丈夫【よんなな会若手首長セッション#4】

 

(編集=金治 諒子)

 未来の希望を職員と共有する

東氏:今日は公務員の方が集まっていらっしゃるので、どうしても我々首長は住民の皆様と話すときに「対話を重視して」とか、「地域みんなと一緒になってやっていきたい」というセリフを吐きがちなんですけど、一方で庁内にいる職員からしたら、「住民と一緒に」というセリフはわかるけれども、やっぱり一緒にやっていくのは職員であって、職員のことはどう思っているんだ、という思いは必ずあると思うんですね。
ドラスティックな改革をしていこうとすればするほど、職員とどれだけ一緒になって前に進んでいけるかが非常に重要だと思う中で、山添町長がおもしろい話をされていたので教えていただいてもよろしいですか。

山添氏:・・・・・。

会場:(笑)。

東氏:副町長のやつ(笑)。

山添氏:あのー。確かに住民の皆様と共に歩くということを私たちは重要視しています。けれども施策の立案、施策の方向性を定めていく段階では、副町長や担当部署の長との連携を密にしています。例えば私が100%の無理難題をしかけたときに、いまの副町長はその難題を真摯に受け止めていただいて、80%、90%まで仕上げてくれる方です。こうして日々の業務の中で、自分が求めるものと、職員と一緒に育める段階のものを見定めながら、一つ一つ事業を推進しているという状況です。

とりわけ、私は職員との対話も大変重要視しています。私たちのまちは分庁舎方式になっているので、月に一回はみんなで集まって話をする機会を設けています。その中で、私が就任以降数多く言ってきた言葉があります。人間の存在に近しい動物で、チンパンジーという動物がいますよね。チンパンジーというのは、いま目の前に起こっている物事に対して、非常に高い能力を発揮するそうです。例えば、自分が交通事故にあって首から下が動かなくなってしまっても、病床ですごく明るく振る舞うという研究結果があります。

これは何を意味しているかというと、チンパンジーにとっては、「いま、現在が極めて重要だ」、ということです。一方、私たち人間はそうじゃないですよね。仮に自分や愛する人がそうした状況になれば、絶望もするし、もし歩こうとする姿を見れば、希望を感じたりもするじゃないですか。これは、私たち人間には、チンパンジーにはできない「未来を想像することができる」力が宿っているということだと思います。この「未来を想像する」を職員と共有することによって、非常に難しい問題にも歯を食いしばって取り組めているのではないかと思います。いまだけでなく未来を見据えて、その先に明るい希望があることを職員と共有しています。

東氏:ありがとうございます。いま山添町長から、「未来の意識を共有する」という話がありましたけれども、その他3町長からも、職員と一緒に歩んでいく上で、「こういうふうにやって欲しいんだ」とか「こういう思いを持って欲しいんだ」というのがあれば一言ずついただけますでしょうか。

よんなな会6

職員自身が豊かな人生を歩んで欲しい

照井氏:私、いま34歳なんですけれども、副町長は60歳で同じ年の娘さんがいるんです。親の世代の人達と一緒に仕事をしていると難しい場面もあるんですが、山添町長も仰ったように、職員と想いを一つにするということが非常に大事だと思っています。私が熱く語らないとまちも熱くならないし職員も熱くならないのですが、そこに副町長が冷静に少しブレーキをかけてくれる。そういう信頼関係を築いています。
(職員と想いを一つにするということが大事ではありますが)職員の皆様も、決して想いだけではなく、家庭があって、働き口の一つとして公務員を選んでいるわけです。(職員の想いが)私の想いと一致するかどうかは別にして、公務員がやりがいをもって働ける職場環境をつくっていく。公務員の皆様が豊かな人生をもってもらうことで、職場全体、まち全体が良くなっていくと思い、私は役場の中で日々そういう話をしています。

東氏:ありがとうございます。

1億円の範囲内ならどんどん失敗していこう!

森田氏:えー、いつも職員に言っているのは、個人賠償請求の1億円の保険に入っているので、範囲内でするミスやったら大丈夫やで、と。

会場:(笑)。

森田氏:そこぐらいまではなんとかすると(笑)。

会場:(笑)。

東氏:すごい寛容ですね(笑)。1憶までOKなんですね。

森田氏:保険でいけるんで(笑)。保険の範囲内の失敗はしてくれと。あと謝ってすむ失敗はしてくれと。ただそれ以外で、人としてしたらあかんこと、人の命に関わる失敗はダメ!!それだけを職員に伝えて、(他は)好きなことやろうと。みんなで楽しく、なるようにやろうと。いま職員にずっと言っていることです。

東氏:いまちょうど予算の首長査定の時期で、先ほどは控室で「この10万もきつい」とか言うてたんですけどね。1憶までOKなんですね(笑)。

森田氏:保険の範囲内なんで(笑)。

東氏:これおそらく皆さんのまちの首長も思っていることなので。「1憶の範囲内ならどんどん失敗していこう!」というメッセージです。

よんなな会7

熱い想いを見せて欲しい

東氏:では最後、しゃべりにくいかもしれないですが、(桑原町長)お願いします。

桑原氏:私も若い職員さんには「失敗を恐れずに」というメッセージを度々出しています。管理職の方々には、「ご自分の後継者は育っていますか」という投げ掛けをするようにしています。そういう形で様々な職員さんとコミュニケーションをはかりながら進めていますけれども、「町長大丈夫か」みたいなシーンがけっこう多いようで、職員の皆様から「支えねば」、「俺たちがしっかりせねば」と思ってくれているみたいで助かっています(笑)。

会場:(笑)。

桑原氏:それでも首長が決めなければならないシーンはありますので、「本当にこれやるんですか?」という最後の一言は投げ掛けるようにしています。(職員から)「それでもやります」という言葉が返ってきたときに、「よしやりましょう」と言うようにしています。

東氏:なるほど。熱い想いを見せて欲しいということですかね。ありがとうございます。

公務員のさまざまな個性が組織力につながる【よんなな会若手首長セッション#5】

 

(文・編集=金治 諒子)

現場と職員がどう繋がるか

質問者:いま、新しい施設の建築を担当しているのですが、この部署に来てまだ3ヶ月なんですよ。現場のことが全然わからないので、市民の方(業者)が現場でどんなふうに作業しているのかを知りたいんですが、下手に関わって何か問題が起こってしまってもいけないと思っていて。どうやって現場の方と、一職員が繋がっていって欲しいと思っていらっしゃいますでしょうか。どうしたら良いのかすごく悩んでいます。

森田氏:職員もその活動に参加させて、これって本当に効果あるのか、みんなのためになるのか、を一緒になってやる(ことで実感させる)というのも一つじゃないのかな。職員も「これ良い」「すごい大事や」と思ったら熱意が出るので。公務員としての職場だけじゃなくて、違うところでも活躍できるような、巻き込む・巻き込まれる力が大事になってくるのかなぁと。

東氏:なるほど。例えば施設を建てるんだったらその施設の利用者になってみる、とかそういうことですかね。一緒に使ってみる中でご意見がたくさん出るのではないかと。
ありがとうございます。

農家や事業者のニーズを徹底的に聞く

質問者:耕作放棄地をどうやって盛り上げたら良いのかについて、現在地元の方々と一緒に様々な取り組みを行っています。その中で、行政から補助金をもらえたらもっと活動を活発化できると思うのですが、ぜひご助言をいただければと思います。

東氏:行政から補助金をもらうにはどうするのか、ということですね。生々しいですね~(笑)。

会場:(笑)。

山添氏:それではお答えしたいと思います。与謝野町は、耕作放棄地が減少傾向にある、非常に珍しい地域です。私たちが大切にしているのは、まず農家の皆様や、その取り組みをしようと思われる方のお話を徹底的に聞く、ということです。現在農林水産の関連予算は多面的に整備されている状況なので、「何をやりたいか」を明確にしていただければ、私たちのまちや京都府、国とのパイプの中で、適切な予算分配をすることが可能だと思います。まず皆様が何をやりたいのか、そしてそれによって、どう地域が持続的に発展することができるのかをお伝えいただければ、きっといろんな支援策を用意できるのではないかなぁと思っています。

東氏:本当に仰る通りで、ばくっと「こんなことやりたいから応援してくれ」と言われると行政は一番苦手だと思っています。どないしようもないんですよね。具体的に「この分野のここなんや」と言っていただけると、お金以外の面でも後押ししやすいのかなぁと思います。

よんなな会8

公務員になりたい方に持って欲しい想い

質問者:昨年民間企業を退職して、現在公務員を目指しているのですが、これから公務員を目指す者にどういう想いを持って働いて欲しいと思っていらっしゃいますでしょうか。

桑原氏:私はこの秋に初めて採用試験に臨んだのですが、最近の傾向として、「津南町に勤めたいから受けます」という人ばかりではなくて、よその市町村から「公務員になりたいので受けました」という人が結構増えているようでした。

でもね、優秀な人だったらどこからでもと思っているんですが、最終的には、町民の視点に立って考えられる人。行政だとか、町民だとか、民間だとか、いまはっきりと線引けなくなってるじゃないですか。いろんな人と参画できるような人、それから公共の心を持った人、頑張ろうっていう人、明るい人、ですかね。

東氏:やっぱりいろんなテーマと近しいところがあって、「みんなでやっていくんだ」という想いがないと、いまの時代難しいのかなぁと思っています。そういうメッセージがあるのかなぁと。

公務員のさまざまな個性が組織力につながる

質問者:行政に勤めて現在3年目なのですが、3年勤めてみて、失敗を怖いと思っている職員が多いという印象があります。その中で、どういうふうな失敗なら許されるというか、失敗の許容範囲と言いますか…。

東氏:1億円以内です(笑)。※『#4』を参照

会場:(笑)。

質問者:失敗の型と言いますか、「こういうふうに失敗できるんだよ」と示してもらうことってすごく大事だと思うんです。

東氏:なるほど、こういう失敗なら許容されるんだよ~という点ですね。わかりました。

照井氏:私もこの立場になって5年採用試験をみています。直接的には副町長が采配するのですが、一度副町長が悩んでいたことがありました。二人採用するうちのもう一人が決まらないと。おとなしい性格の人と、ちょっとやんちゃそうな人とどっちを採るか。おそらく副町長はおとなしい人を採りたかったんだと思います。けれど組織というのは、いろんな個性、パーソナリティがあって組織力に繋がっていくと思っていますので、公務員のための能力は一つじゃない。自分の強みがどこにあるのか、それをどうやって公務員として生かせるのか、それを突き詰めて考えた先に、きっと良い答えがあるんじゃないかなぁというふうに思います。
(中略)

よんなな会9

ひっそり告げ口してね。

東氏:ありがとうございます。時間もなくなってきたので、最後に失敗の部分だけ私から言わせてもらえたらと思うんですけれども、おそらくここにいる首長は、前向きにまちをより良くしたいと思う挑戦であれば、怒る人は誰もいません。それをもし上司の方が「お前なんでそんなことやったんや」って言うんだったら、ひっそり我々に告げ口してもらったらいい。

会場:(笑)。

東氏:それを(若手から)聞いたと言わずにその課長に対して「最近若手から何か勢いある意見なかったか」というように(言いますので)。まぁチクったとばれると思いますけれども(笑)。しっかりとマネジメント層の意識が変わっていくようにもっていくので、「とにかくまちを良くするんだ」という想いの一手で、失敗してもらって構わないので、挑戦していただけたらなぁというのが我々の答えになるかと思います。

時間も経ちましたので、我々のセッションとしてはこの辺りで終わらせていただきます。ありがとうございました!

編集後記

関西在住の私は今回初めて『よんなな会』に参加したが、何よりも強く感じたのは、参加した公務員のエネルギーだった。「噂に聞くよんなな会に参加してみたい」「元気な公務員と出会いたい」「なんだかよくわからないけどおもしろそう」など、参加理由はさまざまだろうが、講演後の懇親会で出会った公務員たちは皆、目が生き生きとしていて、世間一般に聞こえてくるような“身を潜めている”印象は皆無だった。

日本全体の活力を向上するため、政府が東京一極集中から地方創生に舵を切って以降、公務員に求められる役割は大きな転機を迎えている。地域の課題が山積する中で、未来を拓くための鍵となる人材、それが公務員であり、「公務員の志や能力が1%上がれば、日本はもっと良くなる」というスローガンを掲げるこのよんなな会に、全国から公務員が集まる理由がわかった気がした。この日参加していた公務員は、自分たちの地域に帰っても、きっと普段より1%志高く役割を果たしていくに違いない、と思った。(姫路市役所 金治 諒子)